第13回:消防と警察、どこまで調べる ― 調査権の境界

消防法
消防と警察、どこまで調べる 調査権の境界 消防昇任試験対策

火事の現場には、消防だけでなく警察も来ます。放火かもしれないからです。

では、原因を調べるのはどちらの仕事なのでしょうか。そして、消防の調査権はどこまで届くのでしょうか。

今回は、火災調査の境界線の話です。

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消防の調査と警察の捜査(第35条)

📜 消防法第35条第1項

「放火又は失火の疑いのあるときは、その火災の原因の調査の主たる責任及び権限は、消防長又は消防署長にあるものとする。」

条文がはっきり書いています。放火や失火の疑いがあっても、原因調査の責任と権限は消防長・消防署長。「警視総監や警察本部長にある」はまちがいです。

なぜでしょうか。目的がちがうからです。

  • 消防の火災原因調査…なぜ火が出たのかを明らかにして、次の火事を防ぐための調査(行政作用)
  • 警察の犯罪捜査…放火や失火という犯罪について、裁判にかける(公訴を提起する)ための手続(刑事手続)

同じ火事を調べていても、見ているものがちがう。だから両方が並行して行われます。

同じ焼け跡を消防と警察が別の目的で調べている。消防は消火器と住宅、警察は手錠と天秤を思い浮かべている
同じ現場、ちがう目的
火災の原因調査のバトンを持つのは消防長でマル、警察は手を伸ばしても届かずバツ。警察は犯罪捜査のバトンを持つ
原因調査のバトンは消防が握っている
📜 消防法第35条第2項

「消防長又は消防署長は、放火又は失火の犯罪があると認めるときは、直ちにこれを所轄警察署に通報するとともに必要な証拠を集めてその保全につとめ、消防庁において放火又は失火の犯罪捜査の協力の勧告を行うときは、これに従わなければならない。」

つまり、犯罪があると思ったら、①すぐ警察署へ通報、②証拠を集めて保全、③消防庁から協力の勧告があればそれに従う。

直ちに通報、証拠の保全、捜査に協力の3つの場面
犯罪があると認めるときの3つの行動

そして、権限の強さにも差があります。

消防の調査でする質問は任意です。相手が「答えたくない」と言えば、それ以上は強制できませんし、罰則もありません(第1回の立入検査の質問と同じです)。

一方、警察の捜査には令状請求権があります(刑事訴訟法第218条)。裁判官の令状を得れば、差押えや捜索といった強制捜査ができます。

消防の質問は断られたら引き下がる任意、警察は令状を掲げて強制捜査ができる
令状を持っているのは警察のほう
火災原因調査(消防)犯罪捜査(警察)
目的火災の原因・損害の決定(行政目的)公訴の提起(刑事目的)
主体消防長又は消防署長警視総監・警察本部長・警察署長等
質問の性格任意(罰則なし)令状による強制捜査が可能
ここ注意

「捜査権には令状請求権が付与されていない」はまちがいです。

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被害財産の調査には保険会社も(第33条・第34条)

損害の程度を決めるための調査には、意外な人が登場します。

📜 消防法第33条

「消防長又は消防署長及び関係保険会社の認めた代理者は、火災の原因及び損害の程度を決定するために火災により破損され又は破壊された財産を調査することができる。」

消防長・消防署長に加えて、関係保険会社の認めた代理者。この2者です。

なぜ保険会社が出てくるのでしょうか。火災保険の保険金を払うには、どれだけの損害が出たかを客観的に把握する必要があります。そこで、行政(損害の決定)と民間(保険)の双方が同じ財産の状況を確認できるようにしているのです。

この「代理者」を「消防団長」「市町村長」「都道府県知事」に置きかえた選択肢がまちがいになります。選択肢に「関係保険会社の認めた代理者」があるかどうかが正解の目印です。

焼け跡で消防長と関係保険会社の認めた代理者が記録している。消防団員と市長にはバツ
調べられるのはこの2者

調査の範囲は、火災による直接の損害だけでなく、消防隊の消火活動・救助活動・避難の際に生じた損害も含めて解されています。損害の程度を決めるには、そこまで見ないと正確にならないからです。

そして、この調査のための権限が次の条文です。

📜 消防法第34条

「1 消防長又は消防署長は、前条の規定により調査をするために必要があるときは、関係者に対して必要な資料の提出を命じ、若しくは報告を求め、又は当該消防職員に関係のある場所に立ち入つて、火災により破損され又は破壊された財産の状況を検査させることができる。
2 第四条第一項ただし書及び第二項から第四項までの規定は、前項の場合にこれを準用する。」

第2項が準用している第4条第1項ただし書は、第1回で学んだ「個人の住居は、関係者の承諾があるときか、緊急の必要があるときでなければ立ち入らせてはならない」という規定です。

つまり、火災調査の立入りでも、個人の住居は特別あつかい。焼けた家であっても、勝手に入ってよいわけではありません。

焼けた家の玄関前で調査員が足を止めて住人に確認している。承諾があるとき・緊急のときの札
焼けた家でも、勝手には入らない
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調査権が届かない場所

日本の火災調査権は、国内の火事に広く及びます。ただし、届かない場所が2つあります。

  • ① 外交特権のある施設…大使館や公使館など
  • ② 米軍の駐留施設…日米地位協定に基づくもの

どちらも、日本の主権がそのままでは及ばない場所だからです。大使館は、法律上そこを派遣国の領域のようにあつかう決まりがあり(外交関係に関するウィーン条約)、日本の役所が勝手に立ち入ることはできません。

ではまったく調べられないのかというと、そうではありません。相手方の了解を得て調査を実施する場合があります。「頼んで、許可をもらって入る」という形です。

大使館・公使館の門と米軍の駐留施設のゲート。どちらも調査員が了解を得て入る
そのままでは入れない2つ

ここで最大のひっかけが自衛隊の施設です。

自衛隊は日本の組織で、その施設は日本の施設。外交特権も地位協定も関係ありません。だから火災調査権はふつうに及びます。

また、航行中の船舶・原野・競馬場なども、調査権が及ばない特別な対象ではありません。

及ばないのは大使館と米軍施設。及ぶのは自衛隊施設・船舶・原野・競馬場。自衛隊施設にひっかけ注意の札
自衛隊施設は「及ぶ」側
ここ注意

「自衛隊の施設には火災調査権が及ばない」はまちがい。米軍施設と並べて混同させるのが定番のパターンです。

★ ここだけ覚えればOK ★ 境界線は3つ!
①
原因調査は消防

放火の疑いがあっても責任は消防長・消防署長。令状請求権は警察側

②
保険会社の代理者

被害財産の調査は消防長・署長+関係保険会社の認めた代理者

③
自衛隊施設は及ぶ

及ばないのは外交特権の施設と米軍駐留施設の2つだけ

📒 この記事のまとめ

調査権の境界は、「誰の仕事か」「どこまで届くか」で整理できます。

  • 放火・失火の疑いがあっても、原因調査の主たる責任・権限は消防長又は消防署長(第35条第1項)
  • 犯罪があると認めるときは、直ちに警察署へ通報し、証拠を保全し、勧告に従う(同条第2項)
  • 消防の質問は任意で罰則なし。警察には令状請求権があり強制捜査ができる
  • 被害財産を調査できるのは消防長又は消防署長及び関係保険会社の認めた代理者(第33条)
  • 第34条の立入りには第4条第1項ただし書が準用され、個人の住居は承諾か緊急のときのみ
  • 調査権が及ばないのは外交特権のある施設と米軍駐留施設。自衛隊施設には及ぶ

これで消防法の第7章まで終わりました。

📝 CHECK

確認問題(全5問)

問 1

消防が行う火災原因等の調査権と、警察が行う捜査権との記述で、誤っているものはどれか。

  1. 調査権は、火災の原因及び損害を決定するための権限である。
  2. 捜査権には、令状請求権が付与されていない。
  3. 調査権は、犯罪に関連する放火又は失火の原因に関するもののみならず、これと関連のない火災についても対象とする。
  4. 調査権の行使に際しては、任意的ではあるが質問権が付与されている。
  5. 捜査権は、公訴を提起するための権限である。
💡 ヒント

大きな紙を掲げていたのは、消防と警察のどちらでしたか。

✅ 正解と解説を見る

正解:B

司法警察員等には刑事訴訟法第218条により、強制捜査を行うための令状請求権があります。消防の質問は任意である点と対比して覚えましょう。

問 2

放火又は失火の犯罪があると認められる火災の調査に関する記述のうち、誤っているものはどれか。

  1. 放火又は失火の犯罪があると認められる火災であっても、その原因調査の主たる責任及び権限は消防長又は消防署長にある。
  2. 消防長等は、放火又は失火の犯罪があると認めるときは、直ちに所轄警察署に通報しなければならない。
  3. 消防長等は、必要な証拠を集めてその保全に努めなければならない。
  4. 放火又は失火の犯罪があると認められる火災の原因調査の主たる責任及び権限は、警視総監又は道府県警察本部長にある。
  5. 消防長等は、消防庁から犯罪捜査の協力の勧告があるときは、これに従わなければならない。
💡 ヒント

「火災の原因調査」と書かれたバトンを握っていたのは誰でしたか。

✅ 正解と解説を見る

正解:D

放火又は失火の疑いがあるときも、火災の原因の調査の主たる責任及び権限は消防長又は消防署長にあります(第35条第1項)。

問 3

火災による被害財産の調査を行うことのできる者の組合せとして、妥当なものは次のうちどれか。

  1. 消防長、消防署長、消防団長
  2. 市町村長、消防長、関係保険会社の認めた代理者
  3. 消防長、消防署長、関係保険会社の認めた代理者
  4. 都道府県知事、市町村長、消防長
  5. 市町村長、消防団長、関係保険会社の認めた代理者
💡 ヒント

焼け跡で記録していた2人は、どんな服装でしたか。

✅ 正解と解説を見る

正解:C

消防法第33条は「消防長又は消防署長及び関係保険会社の認めた代理者」が被害財産を調査できると規定しています。消防団長や市町村長は含まれません。

問 4

火災調査権に基づき権限行使できない対象物として正しいものは、次のうちどれか。

  1. 航行中の船舶
  2. 自衛隊の施設
  3. 原野
  4. 競馬場
  5. 外交特権を有する大使館
💡 ヒント

仕分け図の赤い枠に入っていたのは、どの建物でしたか。

✅ 正解と解説を見る

正解:E

外交特権を有する大使館・公使館や米軍の駐留施設には我が国の火災調査権が及ばず、相手方の了解を得て調査を実施する場合があります。自衛隊施設・船舶・原野・競馬場は調査権が及ばない特別な対象ではありません。

問 5

火災調査権が及ぶ範囲に関する記述のうち、最も適切なものはどれか。

  1. 外交特権を有する施設では、相手方の了解を得て火災調査を実施する場合がある。
  2. 外交特権を有する大使館には、相手方の了解の有無にかかわらず当然に調査権が及ぶ。
  3. 米軍の駐留施設には、我が国の火災調査権が当然に及ぶ。
  4. 自衛隊の施設には、我が国の火災調査権は及ばない。
  5. 航行中の船舶には、火災調査権が及ばない。
💡 ヒント

2つの門の前で、調査員はどんな吹き出しを出していましたか。

✅ 正解と解説を見る

正解:A

外交特権を有する施設や米軍駐留施設には調査権が及ばず、相手方の了解を得て調査を実施する場合があります。自衛隊施設は国内施設であり調査権が及びます。

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