火事が消えたあと、消防の仕事はまだ終わりません。なぜ火が出たのか、どれだけの被害が出たのかを調べる。これが火災調査です。
調べた結果は、次の火事を防ぐために使われます。第1回で学んだ立入検査も、第5回の防火管理も、もとをたどれば過去の火災調査から生まれたものです。
今回のテーマは「誰が、何を、いつから」。条文を一度そのまま読んでから、かみ砕いていきます。
調査は「しなければならない」(第31条)
「消防長又は消防署長は、消火活動をなすとともに火災の原因並びに火災及び消火のために受けた損害の調査に着手しなければならない。」
たった一文ですが、大事な要素が3つ入っています。
① 権限を持つのは「消防長又は消防署長」
実際に現場で焼け跡を調べるのは消防職員(調査員)ですが、それは消防長・消防署長の権限に基づいて行う補助です。法律上の権限者はあくまで消防長か消防署長。「消防吏員」「消防団長」に置きかえた選択肢はまちがいです。
② 「着手しなければならない」=義務
ここが条文の一番のポイント。「調査することができる」ではありません。火事が起きたら必ず調べなければならないのです。
第1回で学んだ立入検査(第4条)を思い出してください。あちらは「検査させることができる」という権限付与規定でした。こちらは「着手しなければならない」という義務付け規定。同じ消防の調べごとでも、条文の書き方がちがいます。
③ 調べるのは「原因」と「損害」の2つ
条文は「火災の原因並びに火災及び消火のために受けた損害」と書いています。原因だけではありません。「調査の対象は火災の原因のみである」はまちがいです。
「1 消防長又は消防署長は、前条の規定により調査をするため必要があるときは、関係のある者に対して質問し、又は火災の原因である疑いがあると認められる製品を製造し若しくは輸入した者に対して必要な資料の提出を命じ若しくは報告を求めることができる。
2 消防長又は消防署長は、前条の調査について、関係のある官公署に対し必要な事項の通報を求めることができる。」
質問する相手は「関係のある者」。資料提出を命じられる相手は「その製品をつくった人・輸入した人」です。たとえば電化製品から出火した疑いがあれば、そのメーカーに資料を出させることができます。
また、警察や自治体などの官公署に情報提供を求めることもできます。
原因調査と損害調査
原因調査は「出火原因」だけではない
火がどこから、何によって出たか(出火原因)はもちろん調べます。でもそれだけではありません。
- 誰がいつ発見したか
- いつ通報したか
- 初期消火はうまくいったか
- なぜ燃え広がったのか(建物の構造、消防用設備は作動したか)
これらも全部、原因調査の対象です。なぜでしょうか。将来の対策に直結するからです。「報知器が鳴らなかった」と分かれば点検の指導ができますし、「この構造だと燃え広がりやすい」と分かれば基準の見直しにつながります。
「原因調査の対象は出火原因の特定のみに限られる」はまちがいです。
損害調査は「直接の損害」まで
損害調査が対象にするのは、火災そのものと消火活動によって直接受けた損害です。
- 焼損…燃えてしまった損害
- 水損…消火の放水で濡れてしまった損害
- 消火損…消火のために壊した損害
一方、お店が営業できなくなったことによる損害(休業損害)は含まれません。これは火災が原因で間接的に生じた損害(間接損害)だからです。
休業損害が無視されるわけではありません。保険や民事の賠償で扱われる問題であって、消防の火災調査が決めることではない、という線引きです。
| 含まれる | 含まれない | |
|---|---|---|
| 原因調査 | 出火原因、発見・通報・初期消火の状況、延焼拡大の原因 | (犯罪の立証そのもの) |
| 損害調査 | 焼損・水損・消火損などの直接損害 | 休業損害などの間接損害 |
いつから始まる?
火災調査は、いつ始まるのでしょうか。火が消えてから、ではありません。
答えは「消防機関が火災を覚知した時点から」。119番を受けた、その瞬間からもう調査は始まっています。
なぜでしょうか。燃えている最中にしか分からないことがあるからです。
- どこから炎が上がっていたか
- 火はどちらへ広がっていったか
- 自動火災報知設備は鳴っていたか
- スプリンクラーは作動したか
これらは鎮火後の焼け跡を見ても分かりません。だから出動中・消火活動中の見聞きも、立派な調査の一部なのです。
「火災調査は火災が鎮火してから開始される」はまちがいです。
何のために調べるのか
火災調査の目的は、大きく4つです。
- ① 出火原因を調べて、予防対策の資料にする
- ② 延焼拡大の要因を調べて、警防対策(消火活動のやり方)の資料にする
- ③ 発生要因を調べて、防火管理の指導の資料にする
- ④ 火災の原因と損害の程度を決定する
どれも「次に生かす」ための目的です。
ここでひっかかりやすいのが、検察庁や裁判所からの資料照会。火災調査の記録は、放火事件の裁判や保険金の争いで証拠として求められることがあります。
でもそれは、調査した結果としてあとから付いてくるもの。「資料照会に応えることそのもの」は火災調査の目的ではありません。
最後に、調査をするときの心がまえです。
火災調査では、他人の家の中に入り、家計や営業の事情にも触れます。だから知り得た秘密をみだりに漏らしてはいけません。
また、調査は行政の作用である以上、必要な限度を超えて個人の権利や自由を制限してはいけません。権限があるからといって、何をしてもよいわけではないのです。
第31条は「着手しなければならない」。第4条の立入検査は「できる」
原因調査は延焼拡大まで。損害調査に休業損害は含まれない
鎮火後ではない。目的は予防・警防・防火管理で、資料照会は副次的
📒 この記事のまとめ
火災調査は、「誰が・何を・いつから」で整理できます。
- 権限者は消防長又は消防署長。消防吏員や消防団長ではない(第31条)
- 第31条は「着手しなければならない」義務付け規定。第4条の立入検査とは立法形式がちがう
- 調査の対象は火災の原因と、火災及び消火のために受けた損害の2つ
- 原因調査は出火原因に加え、発見・通報・初期消火・延焼拡大の原因まで含む
- 損害調査は焼損・水損・消火損などの直接損害まで。休業損害は含まれない
- 調査は覚知した時点から開始。目的は予防・警防・防火管理の資料と原因・損害の決定
次回は、消防と警察の関係、そして調査権が届かない場所の話です。
確認問題(全5問)
問 1
消防法第31条に定める火災の調査に関する記述のうち、誤っているものはどれか。
- 火災調査の権限行使者は、消防長又は消防署長である。
- 第31条は、権限行使者に火災調査を義務付けた規定である。
- 火災調査の権限行使者は、消防吏員である。
- 火災調査には、原因調査と損害調査がある。
- 原因調査の対象には、火災発生原因のほか延焼拡大原因も含まれる。
💡 ヒント
3つの要素の図で、いちばん左の箱に描かれていたのは誰でしたか。
✅ 正解と解説を見る
正解:C
火災調査の権限の主体は消防長又は消防署長です(第31条)。現場で調査する消防職員は、その権限に基づいて補助執行しているにすぎません。
問 2
火災調査の根拠規定である消防法第31条の立法形式に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 「調査することができる」という権限付与規定であり、調査するか否かは消防長の裁量に委ねられている。
- 立入検査と同じく、関係者の承諾を要件とする規定である。
- 調査の主体を市町村長とする規定である。
- 「調査に着手しなければならない」という義務付け規定である。
- 損害調査のみを対象とし、原因調査は対象外とする規定である。
💡 ヒント
左右に並んだ2人の消防職員。右側の人はどんな姿勢でしたか。
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正解:D
第31条は「着手しなければならない」という義務付け規定です。「検査させることができる」という権限付与規定である立入検査(第4条)とは立法形式が異なります。
問 3
火災調査における原因調査及び損害調査に関する記述のうち、誤っているものはどれか。
- 原因調査の対象には、出火原因のほか延焼拡大の原因も含まれる。
- 損害調査の対象には、被災者の休業損害が当然に含まれる。
- 原因調査には、発見・通報・初期消火の状況の調査も含まれる。
- 損害調査の対象には、消火活動に伴う水損も含まれる。
- 損害調査の対象には、被災のための休業による損害は含まれない。
💡 ヒント
段ボール箱の中に入っていたのは3つ。箱の外にいたのは誰でしたか。
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正解:B
損害調査の対象は火災・消火により直接受けた損害であり、休業損害などの間接損害は含まれません。
問 4
火災調査に係る記述のうち、誤っているものはどれか。
- 火災調査で知り得た個人等の秘密を、みだりに他に漏らしてはならない。
- 火災調査は、消防法に定める権限に基づき行うものである。
- 火災調査を行う場合は、不当に個人の権利を侵害し、又は自由を制限することがないようにする。
- 火災調査は、消防機関が火災を覚知した時点から開始される。
- 火災調査は、火災が鎮火してから開始されるものである。
💡 ヒント
時間軸の下に引かれた帯は、どこから始まっていましたか。
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正解:E
火災調査は消防機関が火災を覚知した時点から開始されます。消火活動中の燃焼状況や設備の作動状況も、原因の解明に欠かせない情報だからです。
問 5
火災調査の目的として、妥当でないものはどれか。
- 検察庁等の関係機関の資料照会に応えることそのものを目的とする。
- 出火原因を調査して、以後の火災予防対策の資料とする。
- 火災の拡大要因を調査して、警防対策の資料とする。
- 火災の発生要因を調査して、防火管理の指導資料とする。
- 火災の原因及び損害の程度を決定する。
💡 ヒント
4本の実線の矢印と、1本だけ点線の矢印。点線の先にあったのは何でしたか。
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正解:A
裁判所や検察庁から法令に基づき資料照会を受けることはありますが、これは副次的なものであり、火災調査本来の目的ではありません。


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