役所の決定に「納得できない!」と思ったとき、どうすればいいでしょう。いきなり裁判…は、お金も時間もかかって大変です。
そこで「裁判までしなくても、役所にもう一度考え直してもらえる」しくみが用意されています。それを定めているのが行政不服審査法です。
この記事では、この法律がどんなもので、どんなときに使い、どう申し立てるのかを、順番に見ていきます。
行政不服審査法ってどんな法律? ― 2つの目的と、裁判との違い
この法律には、2つの目的があります。
- 国民の権利利益の救済:役所の間違った決定で困った人を助ける(あなたのための目的)
- 行政運営の適正の確保:役所が自分の仕事を見直して、正しく直す(役所をよくする目的)
つまり「困った人を助けつつ、役所もちゃんとする」という一石二鳥の法律です。
裁判とくらべると、メリットがはっきりします。
- お金がかからない(裁判のような手数料が原則いらない)
- 早い・手軽(簡易迅速がウリ)
- 「不当」まで見てもらえる:裁判所が見るのは原則「違法(ルール違反)」だけ。でも不服審査なら、ルール違反まではいかなくても「それはさすがに妥当でない(不当)」という中身まで見直してもらえる
いっぽうで、審査するのは役所自身(身内)という弱点もあります。だから最終的な決着は、やはり裁判の役目。不服審査は“お手軽な一次対応”、裁判は“最終決着”と役割分担している、と覚えましょう。
どんなときに使う? ― 身近な具体例
「役所の決定」といってもピンとこないので、具体例で見てみましょう。次のようなときに使えます。
- 営業の許可を申請したのに、断られた(拒否処分に納得いかない)
- 営業停止や許可の取消しを命じられた(不利益処分がおかしいと思う)
- 税金や手数料の金額の決定に不服がある
- 申請したのに、役所がいつまでも返事をくれない(=不作為。これも対象)
対象は幅広く、法律にいちいち書いていなくても広く申立てを認める考え方(概括主義)をとっています。
なお、第6回で学んだ行政指導(お願いベースの行政)は「処分」ではないので、不服審査(や取消訴訟)では争えません。違法な行政指導は国家賠償で争う、でしたね。
不作為も対象になる点はよく問われます。「返事をくれない」も立派な不服の理由です。いっぽう、行政指導を不服審査・取消訴訟で争えるとする選択肢は誤りです。
申立てには種類がある ― 審査請求・再調査の請求・(昔の異議申立て)
「不服申立て」は大きな箱の名前で、中に種類があります。
- 審査請求=今の中心。上級の役所に「調べてください」と申し立てる
- 再調査の請求=処分庁じしんに「もう一回見てください」。法律に定めがあるときだけの任意オプション(税務関係など)
- 異議申立て=昔あったけれど、平成26年の改正で廃止。今は審査請求にまとめられました(一元化)
そして大事なのが、これらは順番に上がる“はしご”ではなく、選べること。ふつうはいきなり審査請求でOK。再調査は使える場面での寄り道にすぎず、原則いきなり裁判に行くことすらできます(法律で「先に審査請求」と定めた処分だけ例外)。
「今も異議申立てがある」は誤り。平成26年改正で異議申立てを廃止し、審査請求に一元化——これが超頻出です。
というわけで、ここから先は中心の「審査請求」をくわしく見ていきます。
中心の「審査請求」を詳しく① ― どこに・いつまでに・どうやって
審査請求の基本ルールは3つセットで覚えます。まずは「どこに出すか」から。
上級の役所があれば、原則いちばん上(最上級行政庁)に出します。ここで消防の具体例——消防署長・消防長の処分は、上をたどると市町村長で止まります(市町村消防の原則)。国の消防庁・総務省には上がりません。国の出先機関の処分なら、いちばん上は大臣です。なお、そもそも上に監督する役所がいなければ、処分庁じしんに出します。
のこり2つは、期間と方法です。
- いつまでに(期間):処分を知った日の翌日から3か月(3月)以内(旧法の60日から変更)
- どうやって(方法):書面(審査請求書)が原則。口頭は法律に定めがあるときだけ
「60日」「口頭が原則」「どの上級庁でも好きに選べる」——この3つはすべて誤りのひっかけです。請求先=最上級行政庁、期間=3月、書面原則、で固定しましょう。
中心の「審査請求」を詳しく② ― 公平のしくみと、教示・だれが使えるか
平成26年改正で、審査請求はより公平になりました。
- 審理員:その処分に関わっていない職員が審理を担当。原則この審理員が審理します
- 行政不服審査会:外部の第三者機関。裁決の前に、原則として意見を聞く(諮問)
- 執行不停止が原則:申し立てても、処分の効力は自動では止まりません。ただし要件を満たせば例外的に執行停止もできる(「一切できない」は誤り)
最後に、やさしい救済ルールを2つ。
教示(きょうじ)制度とは、役所が処分をするとき「これは不服申立てできますよ/期限は○/宛先は△」と案内してあげるしくみです。利害関係人から求められたときも教示します。方法は口頭でも書面でもOK。そして重要なのが、役所が案内を忘れても、その処分は無効になりません(処分庁に不服申立書を出せば、申立てがあったものとみなす救済があります)。
もうひとつ、だれが申し立てられるか(不服申立適格)。処分を受けた本人だけでなく、その処分に法律上の利益がある人なら、第三者でも申し立てられます。
「教示を忘れたら処分は無効」→誤り(無効にならない)。「申立てできるのは処分の相手方だけ」→誤り(法律上の利益ある第三者も可)。この2つが定番です。
裁判より手軽。違法+不当も対象/不作為も対象/概括主義
請求先=最上級行政庁/期間=3月/書面。改正で異議申立て廃止・審理員・第三者機関、執行は不停止が原則
教示を忘れても処分は無効にならない/申立適格は法律上の利益ある者(第三者も可)
📒 この記事のまとめ
行政不服審査法は「裁判の前に、役所の中で見直してもらう」ための法律です。
- 2つの目的(国民の救済+行政の適正)。違法+不当/不作為も対象
- 中心は審査請求:最上級行政庁・3月・書面。平成26年改正で異議申立て廃止・審理員・第三者機関、執行不停止が原則
- 教示を忘れても処分は無効にならない/申立適格は第三者も可
消防の処分は「市町村長まで」が最上級行政庁になる点も、あわせて押さえておきましょう。
確認問題(全5問)
問 1
行政不服審査法に関する記述として、誤っているものはどれか。
- 行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為を対象とする。
- 行政庁の不作為についても、不服申立ての対象としている。
- 上級行政庁が複数あるときは、その中のどの上級行政庁に対しても任意に審査請求を行える。
- 広く不服申立てを認める概括主義を採用している。
💡 ヒント
請求先はタテのラインの「いちばん上」でした。好きなところを選べたでしょうか。
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正解:C
上級行政庁が複数あるときは、原則として最上級行政庁に審査請求します(4条)。どの上級庁にも任意に、ではありません。
問 2
平成26年改正後の行政不服審査法に関する記述として、正しいものはどれか。
- 異議申立てと審査請求の両方が、不服申立ての基本として並存している。
- 異議申立ては廃止され、審査請求に一元化された。
- 審理員の関与は、例外的な場合にのみ行われる。
- 第三者機関への諮問は、原則として行われない。
💡 ヒント
種類の図で、グレーアウトに✕が付いていたのはどれでしたか。
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正解:B
平成26年改正で異議申立ては廃止され、審査請求に一元化されました。審理員は原則関与し、第三者機関(行政不服審査会)へは原則諮問します(C・Dは誤り)。
問 3
審査請求に関する記述として、正しいものはどれか。
- 審査請求は、他の法律に口頭でできる定めがある場合を除き、審査請求書を提出してしなければならない。
- 審査請求期間は、処分を知った日の翌日から60日以内である。
- 審査請求は、口頭でするのが原則である。
- 審査請求については期間の定めがなく、いつでも行える。
💡 ヒント
方法は書面が原則、期間は3か月でした。60日は旧法です。
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正解:A
審査請求は書面(審査請求書の提出)が原則で、口頭は法律に定めがある場合の例外です(19条)。期間は知った日の翌日から3月以内(60日ではありません)。
問 4
行政不服審査法に基づく審理等に関する記述として、誤っているものはどれか。
- 原則として、処分に関与しない審理員により審理が行われる。
- 審査庁は、原則として行政不服審査会に諮問しなければならない。
- 審査請求では、執行停止を行うことは一切できない。
- 審理は、原則として書面で行われる。
💡 ヒント
執行は「不停止が原則」でしたが、例外はなかったでしょうか。
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正解:C
執行不停止が原則ですが、申立人の権利保護等の要件を満たせば執行停止が認められます。「一切できない」は誤りです。
問 5
教示制度・不服申立適格に関する記述として、誤っているものはどれか。
- 不服申立てができる処分をする場合は、教示をする。
- 行政庁が教示をすべきであったのにしなかった場合、当該処分は無効として扱われる。
- 不服申立適格は処分の相手方に限られず、法律上の利益がある第三者にも認められる。
- 教示の方法は、口頭でも書面でもよい。
💡 ヒント
案内を忘れても、処分そのものはどうなるのでしたか。
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正解:B
教示をしなかった場合でも処分は無効になりません。処分庁に不服申立書を提出すれば、不服申立てがされたものとみなされます。申立適格は第三者にも及び、教示の方法は口頭でも書面でもよい(A・C・Dは正しい)。


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