ここまでは、消防の側の権限の話でした。今回からは反対に、建物の側がやらなければならないことを見ていきます。
デパートも学校も病院も、火事のときに消防が来るのを待つだけではありません。ふだんから自分たちで備える義務があります。その中心にいるのが防火管理者です。
テーマは1つ。「決める人と、やる人はちがう」。今回も、条文を一度そのまま読んでから、かみ砕いていきます。
防火管理って、何をすること?(第8条)
「学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店…複合用途防火対象物その他多数の者が出入し、勤務し、又は居住する防火対象物で政令で定めるものの管理について権原を有する者は、政令で定める資格を有する者のうちから防火管理者を定め、…当該防火対象物について消防計画の作成、当該消防計画に基づく消火、通報及び避難の訓練の実施、消防の用に供する設備…の点検及び整備、火気の使用又は取扱いに関する監督、避難又は防火上必要な構造及び設備の維持管理並びに収容人員の管理その他防火管理上必要な業務を行わせなければならない。」
長い条文ですが、骨組みはこれだけです。
「管理について権原を有する者」(=管理権原者。むずかしい言葉ですが、「その建物をどうするか決められる立場の人」、たとえばビルのオーナーや会社の社長のことです)が、防火管理者を決めて、仕事をさせる。
そして防火管理者がやる仕事は、条文に6つ書かれています。
- ① 消防計画をつくる
- ② 消火・通報・避難の訓練をする
- ③ 消防設備の点検・整備
- ④ 火の使い方の監督
- ⑤ 避難・防火のための構造や設備の維持管理
- ⑥ 収容人員の管理(=お客さんを入れすぎないように見る)
決める人と、やる人
この範囲でいちばんまちがえやすいのが、役割の入れかえです。
- 選ぶのは → 管理権原者
- 消防計画をつくって届け出るのは → 防火管理者
「消防計画を管理権原者がつくる」はまちがい。「防火管理者が自分で自分を選ぶ」もまちがいです。
ただし、管理権原者が自分で防火管理者になることはできます。小さなお店で、オーナーが自分で講習を受けて防火管理者になる、というのはよくある形です。「自らはなれない」はまちがいです。
「前項の権原を有する者は、同項の規定により防火管理者を定めたときは、遅滞なくその旨を所轄消防長又は消防署長に届け出なければならない。これを解任したときも、同様とする。」
つまり「遅滞なく」。「10日以内」のような日数は書かれていません。選択肢に日数が出てきたら、まちがいを疑ってください。やめさせたときも同じく届出が必要です。
「3 消防長又は消防署長は、防火管理者が定められていないと認める場合には、権原を有する者に対し、防火管理者を定めるべきことを命ずることができる。
4 …防火管理上必要な業務が法令の規定又は消防計画に従つて行われていないと認める場合には、権原を有する者に対し、必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。」
つまり、①そもそも決めていないときは「決めなさい」、②決めたけれどちゃんとやっていないときは「ちゃんとやりなさい」。どちらも命令の相手は管理権原者です。
なお、テナントが何社も入ったビルのように管理権原が分かれている建物では、統括防火管理者(ビル全体をまとめる防火管理者)を定めることがあります。
「消防計画の作成と届出は管理権原者が行う」「管理権原者自らは防火管理者になれない」「防火管理者を定めたときは10日以内に届け出る」は、いずれもまちがいです。
自衛消防組織(第8条の2の5)
「第八条第一項の防火対象物のうち多数の者が出入するものであり、かつ、大規模なものとして政令で定めるものの管理について権原を有する者は、政令で定めるところにより、当該防火対象物に自衛消防組織を置かなければならない。」
自衛消防組織とは、その建物で働く人たちでつくる「消防チーム」のことです。火事や地震のとき、消防が到着するまでのあいだ、通報したり、お客さんを避難させたり、初期消火をしたりします。
置く義務があるのは、多数の人が出入りし、かつ大規模な建物。この2つがそろってはじめて義務になります。「すべての防火対象物に義務がある」はまちがいです。
「2 権原を有する者は、自衛消防組織を置いたときは、遅滞なく自衛消防組織の要員の現況その他総務省令で定める事項を所轄消防長又は消防署長に届け出なければならない。当該事項を変更したときも、同様とする。
3 消防長又は消防署長は、自衛消防組織が置かれていないと認める場合には、…置くべきことを命ずることができる。」
つまり、つくったら遅滞なく届出。メンバーが変わったときも届出。置いていなければ命令されます。
ここで一番まちがえやすいのが、管理権原者が複数いるときの扱いです。
「前項の場合において、当該権原を有する者が複数あるときは、共同して自衛消防組織を置くものとする。」
つまり、テナントが複数入っているビルでは、それぞれの管理権原者が共同で1つの自衛消防組織を置きます。「統括防火管理者が置く」はまちがいです。統括防火管理者は建物全体の防火管理をまとめる人であって、自衛消防組織を置く主体ではありません。
避難上必要な施設の管理(第8条の2の4)
「学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店、旅館、飲食店、地下街、複合用途防火対象物その他の防火対象物で政令で定めるものの管理について権原を有する者は、当該防火対象物の廊下、階段、避難口その他の避難上必要な施設について避難の支障になる物件が放置され、又はみだりに存置されないように管理し、かつ、防火戸についてその閉鎖の支障になる物件が放置され、又はみだりに存置されないように管理しなければならない。」
つまり、避難の通り道をふさぐな、というルールです。階段に段ボールを積む、非常口の前に商品を置く、防火戸(火事のときに閉まって火を止めるとびら)の前に物を置く——これらが禁止されています。火事のときに逃げ道がふさがっていたら、命にかかわるからです。
「みだりに存置」とは「きちんとした理由もなく置きっぱなしにする」という意味です。
ここでまちがえやすいのが、誰に義務があるかです。条文は「学校、病院、工場…その他の防火対象物で政令で定めるもの」と書いています。つまり百貨店や飲食店のような特定防火対象物だけではありません(特定防火対象物=不特定多数の人が出入りする建物。デパート・飲食店・病院など)。
政令では、施行令別表第1に掲げる防火対象物のうち(18)項〜(20)項を除くもの、とされています。工場や事務所のような建物も含まれる、ということです。「特定防火対象物の管理権原者だけが義務者」はまちがいです。
選任は管理権原者、消防計画は防火管理者。管理権原者が自ら防火管理者になるのはOK
自衛消防組織は2条件そろって義務。権原者が複数なら共同設置(統括防火管理者ではない)
避難施設・防火戸の管理義務は特定防火対象物に限られない
📒 この記事のまとめ
建物の側の備えは、「決める人と、やる人」を押さえれば整理できます。
- 管理権原者が防火管理者を定め、防火管理業務を行わせる(第8条第1項)
- 消防計画の作成・届出は防火管理者の業務。管理権原者自らが防火管理者になることもできる
- 防火管理者を定めたとき・解任したときは遅滞なく届出(日数の定めはない)
- 未選任なら選任命令、業務が不適正なら是正命令。相手はどちらも管理権原者
- 自衛消防組織は「多数が出入り+大規模」で義務。権原者が複数なら共同して置く
- 避難施設・防火戸の管理義務は、特定防火対象物に限定されない
次回は、火事以外の災害に備える防災管理。資格の年数や訓練の回数など、数字が並ぶ範囲を整理します。
確認問題(全5問)
問 1
消防法第8条の防火管理について記したもののうち、正しいものはどれか。
- 管理について権原を有する者自らは、防火管理者になることはできない。
- 消防計画は、管理について権原を有する者が作成しなければならない。
- 管理について権原を有する者は、防火管理者を定めて防火管理業務を行わせなければならない。
- 防火管理者を定めたときは、10日以内に消防長又は消防署長に届け出なければならない。
- 共同住宅は、管理人を置けば防火管理者を定める必要はない。
💡 ヒント
辞令を手渡していたのはどちらの人でしたか。そして条文にあったのは「10日以内」でしたか。
✅ 正解と解説を見る
正解:C
管理権原者が防火管理者を定めて防火管理業務を行わせます(第8条第1項)。管理権原者自らが防火管理者になることもでき、消防計画の作成・届出は防火管理者の業務です。届出は「遅滞なく」であり、日数の定めはありません。
問 2
防火管理制度に関する記述のうち、誤っているものはどれか。
- 管理権原者が防火管理者を選任する。
- 防火管理者が選任されていない場合には、消防長又は消防署長は選任を命ずることができる。
- 防火管理業務が適正に執行されていない場合、消防長又は消防署長は適正執行を命ずることができる。
- 管理権原が分かれている防火対象物には、統括防火管理者が必要となることがある。
- 消防計画の作成と届出は、管理権原者が行う。
💡 ヒント
机に向かって消防計画を書いていた管理権原者の絵には、どんな印がついていましたか。
✅ 正解と解説を見る
正解:E
消防計画の作成と届出は防火管理者の業務です(第8条第1項)。管理権原者が行うとする記述は、役割を入れかえた誤りです。
問 3
自衛消防組織に関する記述のうち、誤っているものはどれか。
- 管理権原を有する者が複数あるときは、統括防火管理者が自衛消防組織を置かなければならない。
- 防火管理義務防火対象物のうち、多数の者が出入りし、かつ大規模なものとして政令で定めるものには、自衛消防組織を設置しなければならない。
- 自衛消防組織を置いたときは、管理権原者は遅滞なく要員の現況等を所轄消防長又は消防署長に届け出なければならない。
- 消防長又は消防署長は、自衛消防組織が置かれていないと認める場合は、設置を命ずることができる。
- 要員の現況等を変更した場合も、遅滞なく所轄消防長又は消防署長に届け出る必要がある。
💡 ヒント
3人のオーナーが手を重ねていた絵と、一人で腕章を持っていた絵。マルがついていたのはどちらでしたか。
✅ 正解と解説を見る
正解:A
管理権原者が複数あるときは、共同して自衛消防組織を置きます(施行令第4条の2の5第2項)。統括防火管理者が置くのではありません。
問 4
防火対象物の避難上必要な施設の管理について記したもののうち、誤っているものはどれか。
- 施行令別表第1に掲げる防火対象物((18)項から(20)項を除く)の管理権原者が義務者となる。
- 避難上必要な施設とは、廊下、階段、避難口その他の避難上必要な施設である。
- 百貨店など特定防火対象物の管理権原者だけが義務者となる。
- 避難の支障になる物件が放置・存置されないようにする。
- 防火戸は、その閉鎖に支障になる物件が放置・存置されないようにする。
💡 ヒント
大きな円の右半分には、どんな建物が並んでいましたか。
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正解:C
義務者は施行令別表第1に掲げる防火対象物((18)項〜(20)項を除く)の管理権原者であり、特定防火対象物に限定されません。工場や事務所なども含まれます。
問 5
防火管理者の業務に関する記述のうち、誤っているものはどれか。
- 防火管理者は、消防計画を作成し、届け出る。
- 防火管理者は、消防計画に基づき消火・通報・避難の訓練を実施する。
- 防火管理者は、火気の使用・取扱いに関する監督を行う。
- 防火管理者の選任は、防火管理者自身が行う。
- 防火管理者は、避難・防火上必要な構造・設備の維持管理を行う。
💡 ヒント
6つの仕事の絵のなかに、「自分を選ぶ」という場面はありましたか。
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正解:D
防火管理者の選任は管理権原者が行います(第8条第1項)。防火管理者が自らを選任するのではありません。


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