前回まで、防火管理者や防災管理者の話をしてきました。では、その人たちがちゃんとやっているかは、誰が確かめるのでしょうか。
それが今回の防火対象物点検です。年に一度、専門の資格を持った人が建物をチェックして、合格すればシールが貼れる。建物の通信簿のようなしくみです。
途中で、よく混同される消防用設備等の点検とのちがいも整理します。今回も、条文を一度そのまま読んでから、かみ砕いていきます。
誰がやらせて、誰がやるのか
「第八条第一項の防火対象物のうち火災の予防上必要があるものとして政令で定めるものの管理について権原を有する者は、…定期に、防火対象物における火災の予防に関する専門的知識を有する者で総務省令で定める資格を有するもの(…「防火対象物点検資格者」…)に、…総務省令で定める基準(…「点検基準」…)に適合しているかどうかを点検させ、その結果を消防長又は消防署長に報告しなければならない。」
登場人物は3人です。
- やらせる人(義務者)=管理権原者。建物のオーナーや社長
- やる人(実施者)=防火対象物点検資格者。専門の資格を持った人
- 報告先=消防長または消防署長
ここが一番まちがえやすいところ。点検するのは防火管理者ではありません。防火管理者は「ふだんの防火管理をする人」、点検資格者は「それができているかを外から確かめる人」。勉強するのが防火管理者、答案を採点するのが点検資格者、というイメージです。
どんな建物が対象?
「法第八条の二の二第一項の政令で定める防火対象物は、別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十六)項イ及び(十六の二)項に掲げる防火対象物であつて、次に掲げるものとする。
一 収容人員が三百人以上のもの
二 前号に掲げるもののほか、…防火対象物の用途に供される部分が避難階以外の階(一階及び二階を除く…)に存する防火対象物で、当該避難階以外の階から避難階又は地上に直通する階段が二(当該階段が屋外に設けられ、又は…避難上有効な構造を有する場合にあつては、一)以上設けられていないもの」
対象は2パターンです。
① 特定防火対象物で、収容人員300人以上
劇場・飲食店・百貨店・病院・ホテルなど、不特定多数の人が出入りする建物を特定防火対象物といいます。そのうち、政令で定めるもので300人以上入る建物が対象です。
大事なのは、用途と人数の両方を見ること。「収容人員500人の工場」は、人数は多くても工場は特定防火対象物ではないので対象外です。
② 逃げ道の階段が1本しかない建物
正式には「特定一階段等防火対象物」といいます。長い名前ですが、「特定防火対象物のお店が上か下の階にあって、階段が1本しかない建物」と覚えれば十分です。
条文の条件を、1つずつ分解します。
条件1:お店などが「1階・2階以外」にある
雑居ビルを思いうかべてください。1階と2階なら、いざというとき窓から出たり、すぐ下りたりできます。でも地下1階や4階にあるお店は、そうはいきません。だから対象になるのは地下または3階以上のお店です。
条件2:そこから下りる階段が「1本」しかない
条文は「階段が2以上設けられていないもの」という書き方をしています。ひっくり返すと「1本しかない」ということです。
階段が2本あれば、片方が煙でふさがってももう片方から逃げられます。でも1本しかなければ、そこが使えなくなった時点で逃げ道がなくなります。
例外:屋外の階段なら1本でもOK
ただし、その階段が建物の外側についている場合などは、1本でも対象になりません。外階段は煙がたまらず、火が回りにくいからです。
つまりこの制度は、「煙が充満したら逃げられなくなる建物」を、人数に関係なく点検の対象にしている、ということです。
300人という数字は①だけにかかっていて、②には人数の条件がありません。
2つの「点検」を混同しない
消防法には、まったく別の点検制度が2つあります。条文にも、はっきり書き分けられています。
「…点検させ、その結果を消防長又は消防署長に報告しなければならない。ただし、第十七条の三の三の規定による点検及び報告の対象となる事項については、この限りでない。」
「第17条の3の3のほうでやる分は、こっちには含めませんよ」と条文みずから言っています。つまり2つは別制度です。
| 防火対象物点検 (第8条の2の2) | 消防用設備等の点検 (第17条の3の3) | |
|---|---|---|
| 何を見る | 人の防火管理ができているか (消防計画・訓練・避難経路など) | モノ(設備)が動くか (消火器・スプリンクラーなど) |
| 誰がやる | 防火対象物点検資格者 | 消防設備士または消防設備点検資格者 |
| いつ | 1年に1回 | 機器点検=6か月に1回 総合点検=1年に1回 |
| 報告 | 1年に1回 | 特定防火対象物=1年に1回 非特定防火対象物=3年に1回 |
点検の回数と、報告の回数はちがいます。 ここが混乱しやすいところです。
「法第十七条の三の三の規定による消防用設備等の点検は、種類及び点検内容に応じて、一年以内で消防庁長官が定める期間ごとに行うものとする。」
条文には「1年以内で消防庁長官が定める期間ごと」としか書かれていません。その告示で、機器点検は6か月ごと(外見上こわれていないか、簡単に動かして確かめる)、総合点検は1年ごと(実際に作動させて総合的に確かめる)と定められています。
そして、報告の間隔だけは建物によって変わります。
「…次の各号に掲げる防火対象物の区分に従い、当該各号に定める期間ごとに消防長又は消防署長に報告しなければならない。
一 令別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十六)項イ、(十六の二)項及び(十六の三)項に掲げる防火対象物 …… 一年に一回
二 令別表第一(五)項ロ、(七)項、(八)項、(九)項ロ、(十)項から(十五)項まで、(十六)項ロ、(十七)項及び(十八)項までに掲げる防火対象物 …… 三年に一回」
一号が特定防火対象物(劇場・飲食店・百貨店・病院・ホテル・地下街など)、二号が非特定防火対象物(共同住宅・事務所・学校・工場・倉庫など)です。
点検はどちらの建物も同じ間隔でやりますが、報告は特定なら毎年、非特定なら3年に1回。不特定多数の人が出入りする建物ほど、こまめに報告させる、という考え方です。
点検は年1回・記録は台帳へ
ここから防火対象物点検の話に戻ります。
「1 法第八条の二の二第一項の規定による点検は、一年に一回行うものとする。
2 …管理について権原を有する者は、前項の規定により点検を行った結果を防火管理維持台帳…に記録するとともに、これを保存しなければならない。」
点検は年1回。結果は防火管理維持台帳という書類ファイルに記録して保存します。「記録・保存は不要」はまちがいです。
「防火対象物点検資格者は、次の各号のいずれかに該当する者で、…講習であって、法人で総務大臣が登録するもの…の行うものの課程を修了し、…免状の交付を受けている者とする。
三 法第八条第一項に規定する防火管理者で、三年以上その実務の経験を有する者
十一 市町村の消防職員で、火災予防に関する業務について一年以上の実務の経験を有する者…」
①一定の実務経験があり、②登録講習機関の講習を修了して免状をもらった人、です。防火管理者なら3年以上の実務経験で受講できます。
そして大事なのが、資格は永久ではないということ。
「防火対象物点検資格者は、次の各号のいずれかに該当するときは、その資格を失うものとする。
五 資格、実務の経験等を偽ったことが判明したとき。
六 消防庁長官が定める期間ごとに登録講習機関の講習を修了し、…免状の交付を受けなかったとき。」
決められた期間ごとに再講習を受けないと、資格を失います。この期間は消防庁長官が定めており、免状の交付を受けた日以後における最初の4月1日から5年以内ごととされています。
「いったん取れば更新なしで永続する」はまちがい。資格や経験を偽った場合も、停止ではなく資格を失います。
合格すればシールが貼れる
「2 前項の規定による点検…の結果、防火対象物点検資格者により点検対象事項が点検基準に適合していると認められた防火対象物には、…表示を付することができる。
3 何人も、…前項の表示を付してはならず、又は同項の表示と紛らわしい表示を付してはならない。」
点検に合格した建物は「この建物は点検済みです」という表示(シール)を貼れます。利用者が安心して入れるようにするためです。
ただし、勝手に貼ってはいけません。ニセのシールや、まぎらわしいシールも禁止。見つかれば、消防長・消防署長が「はがしなさい」と命令できます(同条第4項)。
貼るには2つの条件が必要です。
「法第八条の二の二第二項の表示は、同条第一項の防火対象物が次の各号に掲げる要件を満たしていない場合は付することができない。
一 第四条の二の四第一項の規定に従つて点検を行つていること。
二 前条に規定する基準に適合していること。」
①年1回きちんと点検していることと、②基準に適合していることの両方。「基準を満たしていれば貼れる」は、①が抜けているのでまちがいです。
特例認定は「3年」で覚える
まじめに管理してきた建物には、ごほうびの制度があります。
「消防長又は消防署長は、前条第一項の防火対象物であつて次の要件を満たしているものを、…管理について権原を有する者の申請により、…認定することができる。
一 申請者が当該防火対象物の管理を開始した時から三年が経過していること。
二 当該防火対象物について、次のいずれにも該当しないこと。
イ 過去三年以内において…命令がされたことがあり、又はされるべき事由が現にあること。
ロ 過去三年以内において…取消しを受けたことがあり、又は受けるべき事由が現にあること。
ハ 過去三年以内において…点検若しくは報告がされなかつたことがあり、又は…虚偽の報告がされたことがあること。
ニ 過去三年以内において…点検基準に適合していないと認められたことがあること。」
見てのとおり、全部「3年」です。管理を始めて3年たっていること。過去3年以内に、命令も、取消しも、点検サボりも、ウソの報告も、不合格もないこと。
「2年」「1年」「5年」に置きかえた選択肢は、すべてまちがいです。
この認定を受けると、点検・報告が免除されます(同条第5項)。ただし、申請して検査を受ける必要があります(同条第2項)。
「…次のいずれかに該当することとなつたときは、当該認定は、その効力を失う。
一 当該認定を受けてから三年が経過したとき…
二 当該防火対象物の管理について権原を有する者に変更があつたとき。」
3年たったら失効。そして管理権原者が変わったら失効します。オーナーが変われば、管理のしかたも変わるかもしれないからです。
ここが最大のひっかけどころ。防火管理者が変わっても失効しません。
「消防長又は消防署長は、…次のいずれかに該当するときは、当該認定を取り消さなければならない。
一 偽りその他不正な手段により当該認定を受けたことが判明したとき。
二 …命令がされたとき。
三 第一項第三号に該当しなくなつたとき(=法令の遵守状況が優良という基準に適合しなくなったとき)。」
失効は「自動的に効力がなくなる」、取消しは「消防が取り上げる」。区別して覚えておくと整理しやすくなります。
「管理権原者又は防火管理者に変更があったときは失効する」は、防火管理者を入れている点でまちがいです。
義務者は管理権原者、実施者は防火対象物点検資格者。防火管理者ではない
設備は機器6か月・総合1年。報告は特定1年・非特定3年
失効は管理権原者の変更のみ。防火管理者の変更は無関係
📒 この記事のまとめ
点検制度は、「誰が・何を・いつ」で整理すると迷いません。
- 防火対象物点検は管理権原者が点検資格者に行わせ、消防長・署長に報告する(第8条の2の2)
- 対象は特定防火対象物で収容人員300人以上、または階段が1本しかない建物
- 防火対象物点検と消防用設備等の点検は別制度。設備は機器6か月・総合1年
- 設備点検の報告は特定防火対象物が1年に1回、非特定防火対象物は3年に1回
- 点検は年1回、結果は防火管理維持台帳に記録・保存。資格は再講習を受けないと失う
- 表示は「点検している」+「基準に適合」の2要件。特例認定の要件はすべて3年
次回は、防災管理点検と防炎規制。燃えにくいカーテンの話です。
確認問題(全5問)
問 1
消防法第8条の2の2に定める防火対象物定期点検報告制度に関する記述のうち、誤っているものはどれか。
- 点検義務者は、防火対象物の管理について権原を有する者である。
- 特定防火対象物のうち、収容人員300人以上のものは点検義務がある。
- 特定用途が地階又は3階以上にあり、かつ避難階又は地上に直通する階段が1系統のみのものは点検義務がある。
- 防火対象物の点検実施者は、防火管理者である。
- 点検対象事項が基準に適合していると認められた防火対象物には、その旨を表示できる。
💡 ヒント
消防計画を持っていた人と、クリップボードを持っていた人。マルがついていたのはどちらでしたか。
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正解:D
点検を行うのは防火対象物点検資格者です。防火管理者は日常の防火管理を行う人であり、点検の実施者ではありません。
問 2
消防法第8条の2の2に定める防火対象物点検制度に関する記述として、正しいものはどれか。
- 資格・実務経験等を偽ったと分かっても、資格の停止はあるが資格を失うことはない。
- 防火対象物の点検は、防災管理者が行わなければならない。
- 管理権原者は、点検結果を防火管理維持台帳に記録し、保存しなければならない。
- 収容人員が500人の工場は、防火対象物点検を実施しなければならない。
- 防火対象物点検資格者は、免状の交付を受けた日から3年以内ごとに講習を受講しないと資格を失う。
💡 ヒント
点検結果の用紙は、どこにとじられていましたか。
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正解:C
点検結果は防火管理維持台帳に記録・保存します(施行規則第4条の2の4第2項)。資格を偽れば資格を失い、点検は点検資格者が行い、工場は特定防火対象物ではなく、再講習は最初の4月1日から5年以内ごとです。
問 3
防火対象物点検資格者に関する記述のうち、誤っているものはどれか。
- 防火対象物点検資格者の資格は、いったん取得すれば更新講習を受けなくても永続する。
- 防火対象物点検資格者は、登録講習機関の行う講習を修了した者である。
- 防火対象物点検資格者は、火災予防に関する一定期間以上の実務経験を有する。
- 免状交付日以後最初の4月1日から5年以内ごとに講習を受けないと資格を失う。
- 防火管理者は、3年以上の実務経験があれば防火対象物点検資格者の講習を受講できる。
💡 ヒント
講習を受けずに素通りした免状は、どうなっていましたか。
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正解:A
消防庁長官が定める期間ごとに再講習を受けなければ資格を失います(施行規則第4条の2の4第5項第六号)。永続するわけではありません。
問 4
消防法第8条の2の3に定める防火対象物の点検及び報告の特例認定について、正しいものはどれか。
- 管理について権原を有する者が管理を開始した時から2年が経過していること。
- 過去1年以内に法令違反により命令を受けたことがなく、又は受けるべき事由が現にないこと。
- 5年以内に、虚偽の報告をしたことがないこと。
- 過去2年以内に点検の結果、点検事項に適合していないと認められたことがあること。
- 過去3年以内に特例認定の取消しを受けたことがなく、又は受けるべき事由が現にないこと。
💡 ヒント
5枚のカードに書かれていた数字は、すべて同じでしたね。
✅ 正解と解説を見る
正解:E
特例認定の要件はおおむね「3年」で統一されています(管理開始から3年経過、過去3年以内に命令・取消し・虚偽報告・点検不適合がない)。
問 5
防火対象物の点検及び報告の特例認定の失効・取消しについて記したもののうち、誤っているものはどれか。
- 不正な手段で特例認定を受けたことが判明したときは、取り消される。
- 管理権原者又は防火管理者に変更があったときは失効する。
- 特例認定を受けてから3年が経過したときは失効する。
- 消防法違反で命令を受けたときは、取り消される。
- 法令の遵守状況が優良であるという基準に適合しなくなったときは、取り消される。
💡 ヒント
特例認定の表示がはがれ落ちていたのは、どちらが交代した場面でしたか。
✅ 正解と解説を見る
正解:B
失効するのは管理権原者に変更があったときであり(第8条の2の3第4項第二号)、防火管理者の変更は失効事由に含まれません。


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