テキストを読んだときは「なるほど」と思った。ところが数日後に人から聞かれると、うまく答えられない。
この落差には名前がついていて、実験でくり返し確かめられています。しかも、自分では気づけないという性質があります。
第1回では「閉じて思い出す」という話をしました。今回はそのひとつ先、思い出したものをどう扱うかの話です。
やることは変わりません。いつもの読み方に、ひとつ条件を足すだけです。
「分かる」と「説明できる」は、別のもの
説明させると、自己評価が下がる
2002年に行われた実験があります。手順はごく単純です。
まず参加者に、身のまわりのものについて「どれくらい理解しているか」を自己採点してもらいます。次に、それがどういうしくみで動いているのかを、順を追って説明してもらいます。そのあと、もう一度自己採点します。
結果は一貫していました。説明を書いたあとの点数は、そろって下がったのです。
能力が下がったわけではありません。最初の自己採点が高すぎただけです。
説明しようとして、はじめて「あれ、ここが言えない」と気づく。この現象は「説明深度の錯覚」と呼ばれています。
どんな知識で起きるのか
この研究で興味深いのは、すべての知識で起きるわけではないという点です。
| 知識の種類 | 「分かったつもり」が起きるか |
|---|---|
| しくみ・理由の知識(なぜそうなるのか) | 起きる |
| 手順の知識(どうやるのか) | 起きにくい |
| できごとの知識(何があったのか) | 起きにくい |
| 単純な事実の知識(用語や数字) | 起きにくい |
用語や数字は、覚えているかどうかが自分でも分かります。ところが「なぜそうなっているのか」という種類の知識は、分かった気になりやすい。
昇任試験で言えば、条文の文言そのものより、その条文が何のために置かれているのか、という部分が危ないということです。
対策の方向はひとつです。読んだあとに、説明してみる。以下、その具体的なやり方を見ていきます。
「人に教えるつもり」で読む
読む前のひとことを変えるだけ
いちばん手軽な方法から紹介します。読み始める前に、「これをあとで誰かに説明する」と決めておくだけです。
実際に誰かに話す必要はありません。決めておくだけで、読み方が変わります。
同じ文章、同じ時間で差がついた
2014年の実験では、大学生56人に同じ文章を読んでもらいました。分けたのは、読む前の指示だけです。
- 「あとで別の人に教えてもらいます」と言われたグループ
- 「あとでテストをします」と言われたグループ
そして実際には、どちらのグループも同じテストを受けました。教える機会はありません。
| 測ったもの | テストのつもり | 教えるつもり |
|---|---|---|
| 思い出せた内容の量 | 13% | 17% |
| 要点を思い出せたか | — | はっきり多い |
| 内容の並び方の整い方 | 0.67 | 0.81 |
とくに大きかったのが、いちばん下の「並び方の整い方」です。
教えるつもりで読んだ人は、思い出すときの順番が、元の文章の構成に近くなっていました。ばらばらの断片ではなく、筋の通った形で入っていたということです。
なぜ、決めるだけで変わるのか
人に教えるとなると、頭の中で自然に段取りが始まります。何が大事で、何が枝葉か。どの順で話せば伝わるか。
この作業を、読みながら勝手にやることになります。テストのつもりで読むときは、そこまでしません。
覚える量が増えたのではなく、覚え方の形が変わったということです。
章を開く前に「これを後輩に3分で説明する」と口に出す。それだけです。相手は実在しなくて構いませんが、具体的な誰かを思い浮かべるほうが効きます。
「なぜそうなるのか」を自分に問う
読みながら、ひとこと挟む
2つ目は、読んでいる途中に自分に問いかける方法です。「自己説明」と呼ばれます。
1文か2文読んだところで、いったん止めて、こう問いかけます。
- なぜ、そうなっているのか
- これは、さっき読んだ内容とどうつながるのか
- もしこれがなかったら、どうなるのか
答えは声に出しても、頭の中でも構いません。うまく答えられなくても構いません。問いかけること自体が仕事をします。
64件の研究をまとめた結果
2018年に発表された分析では、この方法を扱った64の研究報告・69件の結果がまとめられました。
その結果、自分に問いかけるようにうながすと、学習の成果がはっきり上がることが確認されています(効果量 g=0.55、中程度の効果)。
教科や年齢を問わず、また文章を読む場面でも問題を解く場面でも効いていました。
ここで大事なのは、新しい知識を足していないという点です。読む材料は同じ。増やしたのは、自分への問いかけだけです。
セクション0とつなげると、意味がはっきりします。「なぜ」が絡む知識ほど分かったつもりが起きやすいのなら、読みながら「なぜ」を潰しておけばいい、ということになります。
全部の行でやると進まなくなります。見出しごとに1回、章の終わりに1回。この程度で十分です。答えが出ないところだけ、印をつけて先に進んでください。
手書きとタイピング、どちらが良いのか
有名な研究と、そのあとの話
「ノートは手書きのほうが身につく」という話を聞いたことがあると思います。もとになっているのは2014年の有名な研究です。
ところが、この分野はその後が大事でした。
| 年 | 分かったこと |
|---|---|
| 2014年 | 手書きのほうが理解を問う問題で成績が良かった |
| 2019年(追試) | 同じ手順で再現されなかった。2日後には差も消えた |
| 2021年(日本の研究) | 記憶の成績に全体の差はなし。ただし脳の活動には差が出た |
2019年の追試では、もとの研究と同じやり方で実験をやり直しました。結果は逆の方向で、しかも2日後にはどちらの差もなくなっていました。
2021年に日本で行われた研究では、48人を紙の手帳・タブレット・スマートフォンの3グループに分けて予定を記録してもらい、あとで思い出す課題をやってもらっています。
こちらも思い出せた量には全体として差がありませんでした。差が出たのは記録にかかった時間(紙が短い)と、思い出すときの脳の活動の大きさでした。
差がついていたのは、別のところ
では、何が成績を決めていたのか。追試を行った研究者たちの結論は、ノートの中身でした。
あとで問われる内容がノートに書かれていたかどうか。それだけです。手書きかタイピングかは、そこに比べれば小さな話でした。
そして中身を分けるのは、写しているか、組み直しているかです。
聞いたことをそのまま書き取るなら、手書きでもタイピングでも同じです。自分の言葉に置き換え、順番を並べ替えているなら、どちらでも効きます。
第1回で「まとめノート」の評価が低かったのも、ここが理由です。写すだけのノートは、作った時点では何も残していません。
使い慣れているほうで構いません。ただし、テキストを見ながら書き写すのはやめてください。閉じてから書く。それだけで中身が変わります。
詰まった場所が、そのまま弱点になる
説明すると、穴が見える
ここまでの3つには、共通する副産物があります。
説明しようとすると、言えるところと言えないところが、はっきり分かれるのです。読んでいるだけでは、この線が見えません。
そして言えなかったところが、そのまま復習すべき場所になります。全部を読み直す必要がなくなる、ということです。
詰まり方は3種類ある
説明が止まったとき、その止まり方で必要な対処が変わります。
| 詰まり方 | 足りていないもの | やること |
|---|---|---|
| 言葉が出てこない | 覚えていない | その語句だけ確認する |
| 言えるが、理由が言えない | つながりが弱い | 「なぜ」を自分に問う |
| 順番がぐちゃぐちゃになる | 組み立てができていない | 見出しだけ書き出して並べ直す |
いちばん多いのは、真ん中の「言えるが、理由が言えない」です。用語は出てくるのに、なぜそうなのかで止まる。
これはセクション0で見た、いちばん分かったつもりが起きやすい種類の知識です。止まって当然の場所だと考えてください。
ひとまわりの手順
ここまでを、ひとつの流れにまとめます。
読む段階では「あとで誰かに説明する」と決めておく。読み終えたらテキストを閉じて、声に出して説明する。詰まった場所に印をつけて、そこだけ読み直す。
全部を読み直さないところが、この方法のいちばんの利点です。
声に出すのが難しければ、白紙に書いても構いません。大切なのは、テキストを閉じた状態でやることです。開いたままだと、詰まった場所が分からなくなります。
読んだあとに足す3つ
→ 読む前に決めるだけで、まとまり方が変わる
→ 見出しごとに1回でよい。答えが出なくてよい
→ そこだけ読み直す。全部は読み直さない
まとめ
読んだときの「分かった」は、あてになりません。とくに「なぜそうなるのか」という種類の知識で、思い違いが起きます。
そして、その思い違いは説明してみるまで気づけません。今日から変えられることは、次の4つです。
- 章を開く前に「後輩に3分で説明する」と決める
- 見出しごとに1回、「なぜそうなるのか」を自分に問う
- 読み終えたらテキストを閉じ、声に出して説明する
- 詰まった場所に印をつけ、そこだけ読み直す
手書きかタイピングかで悩む必要はありません。差がつくのは、写しているか、組み直しているかのほうです。
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- Mueller, P. A., & Oppenheimer, D. M. (2014). The Pen Is Mightier Than the Keyboard: Advantages of Longhand Over Laptop Note Taking. Psychological Science, 25(6), 1159–1168.
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