第6回:説明できて、はじめて分かる ― 読んだあとに何をするか

勉強法
説明できて、はじめて分かる 消防昇任試験対策

テキストを読んだときは「なるほど」と思った。ところが数日後に人から聞かれると、うまく答えられない。

この落差には名前がついていて、実験でくり返し確かめられています。しかも、自分では気づけないという性質があります。

第1回では「閉じて思い出す」という話をしました。今回はそのひとつ先、思い出したものをどう扱うかの話です。

やることは変わりません。いつもの読み方に、ひとつ条件を足すだけです。

0

「分かる」と「説明できる」は、別のもの

説明させると、自己評価が下がる

2002年に行われた実験があります。手順はごく単純です。

まず参加者に、身のまわりのものについて「どれくらい理解しているか」を自己採点してもらいます。次に、それがどういうしくみで動いているのかを、順を追って説明してもらいます。そのあと、もう一度自己採点します。

結果は一貫していました。説明を書いたあとの点数は、そろって下がったのです。

立派な箱を抱えて満足している場面と、開けたら中身がほとんど空だった場面の対比
抱えているときは重い。開けてみると、中身は少ない

能力が下がったわけではありません。最初の自己採点が高すぎただけです。

説明しようとして、はじめて「あれ、ここが言えない」と気づく。この現象は「説明深度の錯覚」と呼ばれています。

どんな知識で起きるのか

この研究で興味深いのは、すべての知識で起きるわけではないという点です。

知識の種類「分かったつもり」が起きるか
しくみ・理由の知識(なぜそうなるのか)起きる
手順の知識(どうやるのか)起きにくい
できごとの知識(何があったのか)起きにくい
単純な事実の知識(用語や数字)起きにくい
「なぜ」が絡む知識でだけ、思い違いが起きやすい

用語や数字は、覚えているかどうかが自分でも分かります。ところが「なぜそうなっているのか」という種類の知識は、分かった気になりやすい。

昇任試験で言えば、条文の文言そのものより、その条文が何のために置かれているのか、という部分が危ないということです。

この記事の前提

対策の方向はひとつです。読んだあとに、説明してみる。以下、その具体的なやり方を見ていきます。

1

「人に教えるつもり」で読む

読む前のひとことを変えるだけ

いちばん手軽な方法から紹介します。読み始める前に、「これをあとで誰かに説明する」と決めておくだけです。

実際に誰かに話す必要はありません。決めておくだけで、読み方が変わります。

自分のために読むと文字が散らばり、誰かに話すつもりで読むと幹と枝にまとまる対比
読む目的が変わると、頭の中でのまとまり方が変わる

同じ文章、同じ時間で差がついた

2014年の実験では、大学生56人に同じ文章を読んでもらいました。分けたのは、読む前の指示だけです。

  • 「あとで別の人に教えてもらいます」と言われたグループ
  • 「あとでテストをします」と言われたグループ

そして実際には、どちらのグループも同じテストを受けました。教える機会はありません。

測ったものテストのつもり教えるつもり
思い出せた内容の量13%17%
要点を思い出せたかはっきり多い
内容の並び方の整い方0.670.81
読む前の指示が違うだけで、思い出し方が変わった

とくに大きかったのが、いちばん下の「並び方の整い方」です。

教えるつもりで読んだ人は、思い出すときの順番が、元の文章の構成に近くなっていました。ばらばらの断片ではなく、筋の通った形で入っていたということです。

なぜ、決めるだけで変わるのか

人に教えるとなると、頭の中で自然に段取りが始まります。何が大事で、何が枝葉か。どの順で話せば伝わるか。

この作業を、読みながら勝手にやることになります。テストのつもりで読むときは、そこまでしません。

覚える量が増えたのではなく、覚え方の形が変わったということです。

やり方

章を開く前に「これを後輩に3分で説明する」と口に出す。それだけです。相手は実在しなくて構いませんが、具体的な誰かを思い浮かべるほうが効きます。

2

「なぜそうなるのか」を自分に問う

読みながら、ひとこと挟む

2つ目は、読んでいる途中に自分に問いかける方法です。「自己説明」と呼ばれます。

1文か2文読んだところで、いったん止めて、こう問いかけます。

  • なぜ、そうなっているのか
  • これは、さっき読んだ内容とどうつながるのか
  • もしこれがなかったら、どうなるのか

答えは声に出しても、頭の中でも構いません。うまく答えられなくても構いません。問いかけること自体が仕事をします。

「なぜ」と問いかけるたびに、ばらばらの点のあいだに線が引かれていく場面
問いかけるたびに、点と点のあいだに線が引かれる

64件の研究をまとめた結果

2018年に発表された分析では、この方法を扱った64の研究報告・69件の結果がまとめられました。

その結果、自分に問いかけるようにうながすと、学習の成果がはっきり上がることが確認されています(効果量 g=0.55、中程度の効果)。

教科や年齢を問わず、また文章を読む場面でも問題を解く場面でも効いていました。

ここで大事なのは、新しい知識を足していないという点です。読む材料は同じ。増やしたのは、自分への問いかけだけです。

セクション0とつなげると、意味がはっきりします。「なぜ」が絡む知識ほど分かったつもりが起きやすいのなら、読みながら「なぜ」を潰しておけばいい、ということになります。

やり方

全部の行でやると進まなくなります。見出しごとに1回、章の終わりに1回。この程度で十分です。答えが出ないところだけ、印をつけて先に進んでください。

3

手書きとタイピング、どちらが良いのか

有名な研究と、そのあとの話

「ノートは手書きのほうが身につく」という話を聞いたことがあると思います。もとになっているのは2014年の有名な研究です。

ところが、この分野はその後が大事でした。

分かったこと
2014年手書きのほうが理解を問う問題で成績が良かった
2019年(追試)同じ手順で再現されなかった。2日後には差も消えた
2021年(日本の研究)記憶の成績に全体の差はなし。ただし脳の活動には差が出た
最初の結果は、あとの研究で確かめきれていない

2019年の追試では、もとの研究と同じやり方で実験をやり直しました。結果は逆の方向で、しかも2日後にはどちらの差もなくなっていました。

2021年に日本で行われた研究では、48人を紙の手帳・タブレット・スマートフォンの3グループに分けて予定を記録してもらい、あとで思い出す課題をやってもらっています。

こちらも思い出せた量には全体として差がありませんでした。差が出たのは記録にかかった時間(紙が短い)と、思い出すときの脳の活動の大きさでした。

差がついていたのは、別のところ

では、何が成績を決めていたのか。追試を行った研究者たちの結論は、ノートの中身でした。

あとで問われる内容がノートに書かれていたかどうか。それだけです。手書きかタイピングかは、そこに比べれば小さな話でした。

手書きとタイピングを天秤にかけて、皿が水平で釣り合っている図
手段の差は小さい。効くのは書いた中身のほう

そして中身を分けるのは、写しているか、組み直しているかです。

聞いたことをそのまま書き取るなら、手書きでもタイピングでも同じです。自分の言葉に置き換え、順番を並べ替えているなら、どちらでも効きます。

第1回で「まとめノート」の評価が低かったのも、ここが理由です。写すだけのノートは、作った時点では何も残していません。

ここが大事

使い慣れているほうで構いません。ただし、テキストを見ながら書き写すのはやめてください。閉じてから書く。それだけで中身が変わります。

4

詰まった場所が、そのまま弱点になる

説明すると、穴が見える

ここまでの3つには、共通する副産物があります。

説明しようとすると、言えるところと言えないところが、はっきり分かれるのです。読んでいるだけでは、この線が見えません。

そして言えなかったところが、そのまま復習すべき場所になります。全部を読み直す必要がなくなる、ということです。

橋の板が抜けている2か所に、赤い旗を立てている場面
抜けている板が分かれば、直す場所も決まる

詰まり方は3種類ある

説明が止まったとき、その止まり方で必要な対処が変わります。

詰まり方足りていないものやること
言葉が出てこない覚えていないその語句だけ確認する
言えるが、理由が言えないつながりが弱い「なぜ」を自分に問う
順番がぐちゃぐちゃになる組み立てができていない見出しだけ書き出して並べ直す
同じ「詰まった」でも、やることは違う

いちばん多いのは、真ん中の「言えるが、理由が言えない」です。用語は出てくるのに、なぜそうなのかで止まる。

これはセクション0で見た、いちばん分かったつもりが起きやすい種類の知識です。止まって当然の場所だと考えてください。

ひとまわりの手順

ここまでを、ひとつの流れにまとめます。

読む・閉じて話す・詰まった所に印・そこだけ読み直す、の4工程が円になった図
1章ぶんで10分ほど。これをひとまわりとする

読む段階では「あとで誰かに説明する」と決めておく。読み終えたらテキストを閉じて、声に出して説明する。詰まった場所に印をつけて、そこだけ読み直す。

全部を読み直さないところが、この方法のいちばんの利点です。

やり方

声に出すのが難しければ、白紙に書いても構いません。大切なのは、テキストを閉じた状態でやることです。開いたままだと、詰まった場所が分からなくなります。

★ ここだけ覚えればOK ★
読んだあとに足す3つ
教えるつもりで読む

→ 読む前に決めるだけで、まとまり方が変わる

「なぜ」を挟む

→ 見出しごとに1回でよい。答えが出なくてよい

詰まった所に印

→ そこだけ読み直す。全部は読み直さない

まとめ

読んだときの「分かった」は、あてになりません。とくに「なぜそうなるのか」という種類の知識で、思い違いが起きます。

そして、その思い違いは説明してみるまで気づけません。今日から変えられることは、次の4つです。

  • 章を開く前に「後輩に3分で説明する」と決める
  • 見出しごとに1回、「なぜそうなるのか」を自分に問う
  • 読み終えたらテキストを閉じ、声に出して説明する
  • 詰まった場所に印をつけ、そこだけ読み直す

手書きかタイピングかで悩む必要はありません。差がつくのは、写しているか、組み直しているかのほうです。

📚 参考文献
  1. Rozenblit, L., & Keil, F. (2002). The misunderstood limits of folk science: an illusion of explanatory depth. Cognitive Science, 26(5), 521–562.
  2. Nestojko, J. F., Bui, D. C., Kornell, N., & Bjork, E. L. (2014). Expecting to teach enhances learning and organization of knowledge in free recall of text passages. Memory & Cognition, 42(7), 1038–1048.
  3. Bisra, K., Liu, Q., Nesbit, J. C., Salimi, F., & Winne, P. H. (2018). Inducing Self-Explanation: a Meta-Analysis. Educational Psychology Review, 30(3), 703–725.
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  5. Morehead, K., Dunlosky, J., & Rawson, K. A. (2019). How Much Mightier Is the Pen than the Keyboard for Note-Taking? A Replication and Extension of Mueller and Oppenheimer (2014). Educational Psychology Review, 31(3), 753–780.
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