第5回:本番で力を出す ― 緊張は、味方にできる

勉強法
本番で力を出す 消防昇任試験対策

準備はしてきた。問題集も回した。それなのに、本番で頭が真っ白になって、あとから「なんであれが出てこなかったのか」と悔しくなる。

この現象には名前がついていて、しくみもかなり分かっています。そして、やることは根性ではありません

むしろ、いちばん効果が確かめられている対策は「試験の直前に10分だけ紙に書く」という、拍子抜けするほど簡単なものでした。

第1回から第4回までは、試験までの話でした。今回は「試験当日の話」です。

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「頭が真っ白」の正体

頭の中には、小さな作業机がある

その場で考えるとき、頭の中では小さな作業机のようなものが使われています。ワーキングメモリ(作業記憶)と呼ばれるものです。

問題文を読んで、条件を頭に置いて、覚えている知識と照らし合わせる。この作業を広げる場所が、その机になります。

ところが、この机はとても狭いことが分かっています。そして不安は、この机の上を占領します

頭の中の作業机が、ふだんは広く、本番では不安で埋まっている対比
机の広さは変わらない。不安が場所を取っている

「頭が真っ白」という感覚は、知識が消えたわけではありません。

知識は残っているのに、それを広げて使う場所がなくなっている状態です。だからあとになって、家に帰ってから思い出せます。

準備してきた人ほど、崩れやすいという結果

2005年に発表された実験は、ここでかなり意外な結果を出しました。

参加者に計算問題を解かせ、途中からプレッシャーのかかる条件に変えます。そのうえで、成績がどう変わるかを、頭の中の作業机が広い人と狭い人で比べました。

プレッシャーで成績が下がったのは、作業机が広い人のほうだけでした。しかも、机をいちばん使う難しい問題で、いちばん下がっています。

理由は単純です。机が広い人は、その広さを使って解いていました。だから、そこを不安に取られると、失うものが大きくなります。

言い換えると、本番で崩れるのは、準備が足りない人ではありません。むしろ、ふだんしっかり考えて解いている人のほうが、影響を受けます。

この記事の前提

対策の方向は、ひとつだけです。知識を増やすことではなく、机の上を占領しているものをどかすこと。以下、その具体的な方法を見ていきます。

1

直前10分、不安を紙に書き出す

やることは、これだけ

試験が始まる前の10分間、白い紙に、今感じている不安をそのまま書きます。

文章がうまい必要はありません。「落ちたらどうしよう」「時間が足りない気がする」「あの科目が不安だ」。頭に浮かんでいることを、そのまま出すだけです。

誰かに見せるものではないので、きれいに書く必要もありません。

頭の中のもやもやが紙の上に移り、頭の中が広くなっている場面
頭から紙へ移すと、そのぶん机が空く

実験室でも、教室でも効いた

2011年に発表された研究では、この方法が2段階で確かめられています。

まず実験室で、プレッシャーをかけた計算テストの前に、書いたグループと静かに座っていたグループを比べました。

直前にしたこと正答率の変化
静かに座っていた12%下がった
10分間、不安を書き出した5%上がった
同じプレッシャーでも、直前の10分で向きが変わった

次に、実際の学校の期末試験でも試されました。とくに緊張しやすいと答えていた生徒に絞ると、書いたグループの成績はB+、書かなかったグループはB−。1段階の差がついています。

研究者は、この結果を「もともと不安の強い生徒が、本来の力を出せるようになった」と説明しています。地力が上がったのではなく、出せていなかった分が出たということです。

なぜ、書くと効くのか

セクション0の話がそのまま答えになります。

頭の中で抱えているかぎり、不安は作業机の上に居座り続けます。ところが紙に書き出すと、そこに置いておけるようになります。

考えないようにするのではなく、いったん外に出して、置き場所を変えるということです。

やり方

試験開始の10分前、白紙かメモ帳の裏に、思っていることをそのまま書く。読み返さず、そのまま閉じてください。前向きなことを書こうとしなくて構いません。

2

ドキドキは「準備できている合図」

同じ体の反応を、別に読む

本番の朝、心臓が速くなる。手が汗ばむ。息が浅くなる。

これを「まずい、緊張している」と受け取ると、そこからさらに不安が増えます。ところが同じ反応は、体が力を出す準備をしている状態でもあります。

血圧が上がり、心拍が上がり、酸素が回る。これは本来、目の前のことに対処するための反応です。

まったく同じ鼓動の波形を、こわがる側と準備の合図として受け取る側の対比
体に起きていることは同じ。読み方だけが違う

説明を読んだだけで、点が上がった

この「読み替え」を実験で試したものがあります。

試験の前に、参加者に短い説明を読ませました。内容は、「試験のときに感じる緊張は害ではなく、むしろ力を出すのを助けている」というものです。それだけで、他には何もしていません。

2010年の研究では大学院入試の模擬試験で、2016年の研究では実際の授業の試験で、それぞれこの説明を読んだグループの成績が上がりました(2016年の研究で効果量 d=0.55、中程度の効果)。

同じ体の反応読み方
心臓が速くなる血が回っている。頭に酸素が届く
手が汗ばむ体が動く準備をしている
息が浅くなる取り込む量を増やそうとしている
緊張を消そうとせず、意味づけだけを変える

ここで大事なのは、緊張をなくそうとしていない点です。「落ち着け」と言い聞かせる方法ではありません。

ドキドキしたままで構わない。それは準備ができている合図だ、と受け取り直すだけです。

ここが大事

試験の緊張の話です。日常生活に支障が出るほどの強い不安が続く場合は、別の対処が必要になります。その場合はひとりで抱えず、相談できる先に話してください。

3

「最初の答えを信じろ」は、間違い

見直しで迷ったとき、どうするか

見直しをしていて、選んだ答えが気になる。別の選択肢のほうが正しい気がしてきた。

このとき、多くの人が「最初の直感を信じたほうがいい」と考えます。変えて外したときの悔しさを、誰もが知っているからです。

ところが、実際に調べた結果は逆でした。

3,291回の書き直しを数えた研究

2005年の研究では、大学の試験の答案1,561枚を回収し、消しゴムの跡から書き直しをすべて数えました。合計3,291回です。

その内訳が、こちらです。

答えの書き直しの内訳を示す帯グラフ。まちがい→正解51%、正解→まちがい25%、まちがい→まちがい23%
書き直しの内訳(3,291回)
書き直しの結果割合
まちがい → 正解51%
正解 → まちがい25%
まちがい → まちがい23%
得をした書き直しが、損をした書き直しの2倍あった

書き直して正解になったほうが、まちがいになったより2倍多いという結果です。

いっぽうで、同じ研究で学生に聞くと、75%が「最初の答えのほうが正しいはずだ」と答えていました。事実と、思い込みが逆を向いています。

なぜ「変えると損」だと感じるのか

理由は、記憶に残る場面が偏っているからです。

変えて外したときは、「変えなければ合っていたのに」と強く悔やみます。この場面はよく覚えています。

ところが、変えて正解になったときは「変えてよかった」で終わり、そのまま忘れます。悔しかった記憶だけが残るので、変えると損だという印象ができあがります。

やり方

ただし、何となく落ち着かないから変える、は別です。読み違えに気づいた、条件を見落としていた、という理由が言えるときは、迷わず書き直してください。

4

解く前に、会場を思い浮かべる

覚えた場所と、思い出す場所

覚えたときの場所と、思い出すときの場所が違うと、思い出しにくくなることが知られています。

1935年から1997年までの75件の研究をまとめた分析では、この効果が確かに存在することが確認されました。ただし大きさは控えめで、効果量は d=0.28(小さめの効果)です。

自宅で覚えたことが試験会場で出てこない理由の、ひとつではあるということになります。

自宅の机に試験会場の輪郭が半透明に重なって見えている場面
場所は動かせないが、思い浮かべることはできる

思い浮かべるだけで、差が消えた

ここからが実用的な話です。

同じ分析では、覚えたときの場所を頭の中で思い浮かべてもらうと、場所が違うことによる不利がほぼ消えることも示されています。

つまり、試験会場で勉強する必要はありません。会場を思い浮かべてから解く、それだけで足ります。

条件場所が違うことの不利
そのまま別の場所で思い出す出る
覚えた場所を頭に思い浮かべてから思い出すほぼ消える
他に強い手がかりがあるとき出にくい
場所そのものより、手がかりがあるかどうかが効く

もうひとつ、この分析が示しているのは、他にしっかりした手がかりがあると、場所の影響は小さくなるということです。

内容どうしが結びついて覚えられていれば、部屋が変わっても引き出せます。第1回の想起練習と第4回の「実務の場面に結びつける」が効いてくるのは、ここです。

やり方

模試や過去問を解くときは、本番と同じ時刻・同じ制限時間で。始める前に会場の様子をひと呼吸ぶん思い浮かべると、それだけで条件が近づきます。

5

当日、何をして、何をしないか

やることは、多くない

ここまでの4つを、当日の流れに並べます。

ポイントは、当日に新しいことをしないことです。当日できるのは、持っているものを出しやすくすることだけになります。

試験当日の朝、参考書を置いて紙1枚だけ持って出かける場面
当日に増やせるものはない。出しやすくするだけ

当日の流れ

  • :新しい教材に手を出さない。見るなら、これまで間違えたところだけ
  • 会場に着いたら:ドキドキしてきたら「準備ができている合図」と受け取り直す
  • 開始10分前:白紙に、今感じている不安をそのまま書き出す。読み返さずに閉じる
  • 解いている間:理由が言えるなら、答えを書き直す。何となくなら、そのまま

シリーズ5回のまとめ

第1回から今回までで、勉強法のひととおりが揃いました。

覚え方(第1回)、机の整え方(第2回)、続け方(第3回)、大人ならではの条件(第4回)、そして本番(第5回)。

どれも共通しているのは、意志の強さではなく、やり方と段取りの問題だったということです。

ここが大事

当日にできることは限られていますが、ゼロではありません。10分の書き出しと、緊張の受け取り方。この2つだけでも、出せる量は変わります。

★ ここだけ覚えればOK ★
当日にできる3つ
10分書き出す

→ 頭から紙へ移すと、考える場所が空く

緊張は合図

→ 消そうとせず、読み方だけを変える

理由があれば直す

→ 書き直しは、得のほうが2倍多かった

まとめ

本番で力が出ないのは、知識が消えるからではありません。知識を広げて使う場所を、不安が占領しているからです。

そして場所は空けられます。当日にできることは、次の5つです。

  • 開始10分前、白紙に不安をそのまま書き出す
  • ドキドキは「準備ができている合図」と受け取り直す
  • 理由が言えるときは、答えを書き直す
  • 解く前に、会場の様子をひと呼吸ぶん思い浮かべる
  • 当日の朝は、新しい教材に手を出さない

緊張をなくそうとするのをやめて、緊張したままで出せる形を作る。本番でやることは、それだけです。

📚 参考文献
  1. Beilock, S. L., & Carr, T. H. (2005). When High-Powered People Fail: Working Memory and “Choking Under Pressure” in Math. Psychological Science, 16(2), 101–105.
  2. Ramirez, G., & Beilock, S. L. (2011). Writing About Testing Worries Boosts Exam Performance in the Classroom. Science, 331(6014), 211–213.
  3. Jamieson, J. P., Mendes, W. B., Blackstock, E., & Schmader, T. (2010). Turning the knots in your stomach into bows: Reappraising arousal improves performance on the GRE. Journal of Experimental Social Psychology, 46(1), 208–212.
  4. Jamieson, J. P., Peters, B. J., Greenwood, E. J., & Altose, A. J. (2016). Reappraising Stress Arousal Improves Performance and Reduces Evaluation Anxiety in Classroom Exam Situations. Social Psychological and Personality Science, 7(6), 579–587.
  5. Kruger, J., Wirtz, D., & Miller, D. T. (2005). Counterfactual thinking and the first instinct fallacy. Journal of Personality and Social Psychology, 88(5), 725–735.
  6. Smith, S. M., & Vela, E. (2001). Environmental context-dependent memory: A review and meta-analysis. Psychonomic Bulletin & Review, 8(2), 203–220.

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