第2回:集中できないのは意志の問題じゃない ― 注意をうばう5つの正体

勉強法
集中できないのは意志の問題じゃない 消防昇任試験対策

机には向かった。参考書も開いた。それなのに、気がつくと10分たっていて、内容が頭に入っていない。

こういうとき、多くの方が「自分は意志が弱い」と考えます。ですが、集中の研究を見ていくと、話はまったく別のところにありました。

集中できるかどうかを決めているのは、意志の強さではなく、まわりに何が置いてあるかです。

前回は「どう覚えるか」の話でした。今回は「どう机に向かうか」の話です。研究でわかっている、注意をうばう5つの正体を見ていきます。

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そもそも、集中力は「持っている量」ではない

注意は、分け合うと減る

「集中力がある人・ない人」という言い方をします。ですが、心理学で扱う注意(ちゅうい)は、性格ではなく容量が決まっている資源として考えられています。

電池の残量のようなものだと思ってください。同時に何本もコードをつなげば、1本あたりに届く電力は減ります。

つまり、何かに注意を持っていかれているとき、参考書に回せる分はそのぶん減っている、ということになります。

頭の中のバッテリーから、スマホや通知に電力が吸い取られているイメージ
注意は電池の残量に近い。分け合えば1つあたりは減る

ここが大事なところです。減った分は、気合いでは戻りません。

戻す方法はひとつだけで、持っていっているものを減らすことです。

「気をつける」では解決しない

気が散るものが近くにあるとき、私たちは「見ないように気をつける」という対処をしがちです。

ところが、この「見ないようにする」こと自体に注意を使ってしまいます。がまんしているあいだ、そのがまんに電力が回っているわけです。

ですから、正しい対処は、がまんしなくて済む状態を先に作っておくことになります。

この記事の前提

ここから紹介するのは、根性の話ではなく、机のまわりをどう整えるかの話です。5つとも、今日のうちに変えられるものばかりです。

1

スマホは「見なければいい」では足りない

置いてあるだけで成績が下がった実験

2017年に行われた、大学生275人を対象にした実験があります。

参加者を3つのグループに分け、自分のスマートフォンをそれぞれ違う場所に置いてもらいました。そのうえで、記憶力と考える力を測るテストを受けます。

スマートフォンはすべてマナーモードで、伏せて置かれています。誰も一度も触っていません。

スマホを机の上・カバンの中・別の部屋に置いた3つの場面の対比
同じ人でも、スマホの置き場所で成績が変わった

遠いほど成績が良かった

結果は、置き場所が遠いグループほど成績が良い、というものでした。

スマホの置き場所テストの成績
机の上(伏せて置く)いちばん低い
ポケット・カバンの中その中間
別の部屋に置くいちばん高い
触っていなくても、近くにあるだけで差が出た

触っていないのに差がつく理由は、セクション0の話につながります。

視界に入っているスマートフォンは、「今は見ない」と決め続けるための注意を、ずっと使わせているのです。

だから「別の部屋」が正解になる

よく言われる「勉強中はスマホを伏せて置く」は、この実験でいちばん成績が低かった置き方でした。

カバンにしまうのも、机の上よりはましというだけです。

手間はかかりますが、別の部屋に置いてくるのがいちばん確実です。取りに行くのが面倒であるほど、効果は上がります。

やり方

別の部屋が無理なら、玄関やキッチンなど、席を立たないと届かない場所へ。同じ部屋の引き出しでも、閉めて視界から消すだけで違います。

2

通知は「あとで見る」でも効いている

鳴っただけで、ミスが増えた

2015年に発表された実験では、参加者に集中力を測る作業をしてもらいながら、途中で本人のスマートフォンに通知を届けました。

参加者は通知を確認していません。画面も見ていません。ただ、鳴ったり震えたりしただけです。

それでも、通知が届いた時間帯はミスが増え、反応が雑になりました

通知が光った瞬間に、考えていたことが引っぱられているイメージ
見ていなくても、考えていたことが持っていかれる

研究者たちは、この妨げの大きさを「実際にスマートフォンを操作したときと同じくらい」と表現しています。

「あとで見るから大丈夫」は、残念ながら成り立たないということです。

なぜ、見ていないのに効くのか

通知が鳴った瞬間、頭のなかでは「誰からだろう」「何の用だろう」という問いが自動的に立ち上がります。

この問いは、答えが出るまで消えません。見ないでいるあいだ、その問いを抱えたまま作業を続けることになります。

やっかいなのは、本人にはその自覚がないことです。「気にしていない」と思っていても、注意は減っています。

割り込まれても終わる。ただし、しんどくなる

関連して、2008年に発表された職場での実験も紹介します。

48人に作業をしてもらい、途中で割り込みを入れたグループと、入れなかったグループを比べました。結果は意外なもので、割り込まれたほうが、作業は約2分半ほど早く終わっていました

ただし、その代わりにストレス・いらだち・急かされている感じ・使った労力が、すべて上がっていました。

条件終わるまでの時間ストレス・労力
割り込みなし約22.8分低い
割り込みあり約20.3〜20.6分高い
早く終わった代わりに、消耗が増えていた

割り込みは、仕事を終わらなくするのではありません。

同じことを、より消耗しながらやらせるということです。そして消耗した分は、次に取りかかるものへ持ち越されます。

やり方

勉強中は機内モードにするか、通知をオフに。「音を消す」だけでは画面が光るので、通知そのものを止めるところまでやってください。

3

「ながら」は同時ではなく、切り替え

2つを同時にはできていない

動画を流しながら、SNSを見ながら、勉強する。いわゆる「ながら勉強」です。

本人の感覚では、2つを同時にこなしているつもりでいます。ですが実際に起きているのは、短い時間で行ったり来たりを繰り返しているだけです。

そして、行き来のたびに切り替えの手間がかかります。参考書に戻っても、頭のなかにはさっきまで見ていたものが残っています。

講義中にノートパソコンでながら作業をする人と、その画面を見てしまう後ろの席の人
ながら作業は、となりの席にも影響していた

本人だけでなく、となりの人も下がった

2013年に発表された実験では、講義を受けている学生を対象に、ノートパソコンで別の作業をしながら聞くグループと、講義だけを聞くグループを比べました。

さらに、ながら作業をしている人が視界に入る席にすわった学生の成績も測っています。

立場理解度テストの成績
ながら作業をした本人約11%低い
それが視界に入っていた人約17%低い
見ていた側のほうが、下がり幅は大きかった

自分は何もしていないのに、となりの画面が視界に入っていただけで、本人より成績が下がっています。

それだけ、動いている画面は注意を持っていく力が強いということです。

「1つずつ終わらせる」がいちばん速い

ながらでやると、時間はかかるのに身についていない、という状態になります。

動画を見たいなら、参考書を閉じてから見る。見終わってから開く。順番に置くだけで、同じ時間の中身が変わります。

注意

「ながらでもできている」という感覚は、前回の記事で出てきた「分かった気」と同じ種類のものです。手応えと結果は一致しません。

4

BGMは「歌詞があるかどうか」で変わる

音楽そのものが悪いわけではない

勉強中の音楽については、「良い」「悪い」の両方の意見をよく見かけます。

研究の結果を見ると、分かれ目はもっとはっきりしていて、歌詞があるかどうかでした。

歌詞のある音楽と歌詞のない音楽を聴きながら読書する場面の対比
言葉が流れてくると、読んでいる言葉とぶつかる

歌詞ありは下がり、歌詞なしは変わらなかった

2023年に発表された実験では、100人以上の参加者に、静かな環境・歌詞のない音楽・歌詞のある音楽の3つの条件で、記憶や読解の課題に取り組んでもらいました。

聴いていたもの記憶・読解への影響
静かな環境基準
歌詞のない音楽ほとんど変わらない
歌詞のある音楽下がる
分かれ目は音量でも好みでもなく、歌詞の有無だった

理由は単純で、文章を読むことも、歌詞を聞くことも、どちらも言葉を扱う作業だからです。同じところを取り合ってしまいます。

好きな曲かどうかは関係ありませんでした。好きな曲でも、歌詞があれば下がっています。

自分の感覚はあてにならない

この実験では、もうひとつ興味深いことが分かっています。

参加者は「歌詞ありは邪魔だった」と正しく気づけていた一方で、歌詞なしの音楽については「あったほうがはかどった」と感じていました。実際には、成績は変わっていません。

気分が上がることと、身についていることは別だということです。

やり方

音があったほうが落ち着くなら、歌詞のない曲か環境音に。暗記や読解のときほど、言葉が流れてこないものを選んでください。

5

休憩は、集中の敵ではない

ぶっ通しでやると、後半が落ちる

ここまでは「注意をうばうものを減らす」話でした。最後は、逆の話をします。

同じ作業を長く続けていると、後半になるほど成績が落ちていきます。これは疲れというより、その作業をしているという意識そのものが薄れていくために起こります。

ずっと同じ景色を見ていると、見えているのに見なくなる、という感覚に近いものです。

長い道をぶっ通しで歩く場合と、短く区切って歩く場合の対比
短く区切ったほうが、最後まで姿勢が保てる

短く区切った人だけ、最後まで落ちなかった

2011年の実験では、40分間の単調な作業を4つのグループに行ってもらいました。

そのうち1つのグループだけ、途中に3回、ほんの短い別の作業をはさみました。中断といっても、数秒から十数秒の話です。

結果は、次のとおりです。

グループ後半の成績
作業だけを続けた落ちた
数字を覚えたが、最後まで思い出さない落ちた
数字が出ても無視して続けた落ちた
途中3回、短く思い出してから戻った落ちなかった
短い切れ目をはさんだグループだけが最後まで保った

ポイントは、休憩の長さではありません。一度いったん離れて、また戻るという切れ目が入ることです。

戻ってきたときに「今からこれをやる」と改めて意識し直せるので、意識が薄れずに済む、というしくみです。

ただし、休憩にスマホを持ち込まない

ここで気をつけたいのが、休憩の中身です。

休憩のたびにスマートフォンを見ると、セクション1と2で見たとおり、戻ってきたあとも注意を持っていかれたままになります。

立ち上がる、水を飲む、窓の外を見る。この程度で十分です。

やり方

時間で区切るのが難しければ、「1章終わったら立つ」のように区切りで決めても構いません。大切なのは、長さではなく切れ目の回数です。

★ ここだけ覚えればOK ★
意志ではなく、環境をいじる
スマホは別の部屋

→ 伏せて置くのは、いちばん低かった置き方

通知は止める

→ 見ていなくても、鳴った時点で効いている

1つずつ終わらせる

→ ながらは同時ではなく、行ったり来たり

まとめ

集中できないのは、意志が弱いからではありません。注意をうばうものが、手の届くところに置いてあるからです。

そして、置き場所は自分で変えられます。今日から変えられることは、次の5つです。

  • スマホは別の部屋か、席を立たないと届かない場所へ
  • 通知は音だけでなく、表示ごとオフにする
  • 「ながら」をやめて、1つずつ終わらせる
  • BGMを流すなら、歌詞のない曲を選ぶ
  • 長さより回数。短い切れ目をこまめに入れる

意志の力でがまんするのをやめて、がまんしなくていい机を作る。そのほうが、ずっと長続きします。

📚 参考文献
  1. Ward, A. F., Duke, K., Gneezy, A., & Bos, M. W. (2017). Brain Drain: The Mere Presence of One’s Own Smartphone Reduces Available Cognitive Capacity. Journal of the Association for Consumer Research, 2(2), 140–154.
  2. Stothart, C., Mitchum, A., & Yehnert, C. (2015). The attentional cost of receiving a cell phone notification. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 41(4), 893–897.
  3. Mark, G., Gudith, D., & Klocke, U. (2008). The Cost of Interrupted Work: More Speed and Stress. Proceedings of CHI 2008, 107–110.
  4. Sana, F., Weston, T., & Cepeda, N. J. (2013). Laptop multitasking hinders classroom learning for both users and nearby peers. Computers & Education, 62, 24–31.
  5. Souza, A. S., & Barbosa, L. C. L. (2023). Should We Turn off the Music? Music with Lyrics Interferes with Cognitive Tasks. Journal of Cognition, 6(1), 24.
  6. Ariga, A., & Lleras, A. (2011). Brief and rare mental “breaks” keep you focused: Deactivation and reactivation of task goals preempt vigilance decrements. Cognition, 118(3), 439–443.

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