前回は、危険物を置く場所の話でした。今回は、それをあつかう人の話から始めます。
そしてもう1つ。消防法の危険物の規制は、どこまで届くのでしょうか。飛行機や船の中にも届くのでしょうか。
資格と、法律の切れ目。この2つが今回のテーマです。
危険物取扱者と保安監督者
「政令で定める製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者は、甲種危険物取扱者…又は乙種危険物取扱者…で、六月以上危険物取扱いの実務経験を有するもののうちから危険物保安監督者を定め、…保安の監督をさせなければならない。」
つまり、保安監督者になるには2つの条件がいります。
- 甲種または乙種の危険物取扱者であること
- 6か月以上の実務経験があること
丙種はなれません。資格を取っただけでも足りず、実際に6か月以上あつかった経験が必要です。監督する立場なので、現場を知らない人では務まらないからです。
なお、保安監督者を定めたときと解任したときは、遅滞なく市町村長等に届け出ます(第13条第2項)。
立会いができるのは甲種と乙種だけ
「製造所、貯蔵所及び取扱所においては、危険物取扱者…以外の者は、甲種危険物取扱者又は乙種危険物取扱者が立ち会わなければ、危険物を取り扱つてはならない。」
資格のない人でも、立会いがあれば危険物をあつかえます。アルバイトの人がガソリンスタンドで働けるのは、このしくみのおかげです。
ただし、立ち会えるのは甲種と乙種だけ。条文がそう書いています。丙種は立会いができません。
丙種は、自分であつかえる危険物の範囲も決まっています(ガソリン・灯油・軽油など)。その範囲を自分であつかうことはできても、ほかの人の作業に立ち会う役目までは与えられていない、ということです。
「丙種が立ち会えばよい」はまちがいです。立会いは甲種・乙種に限られます。
無資格の取扱いには、会社への罰金がない
第13条第3項に違反すると、第42条第1項第7号により6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。
ここからが本題です。前回(第15回)で見た両罰規定の条文を、もう一度見てみましょう。
「…第四十二条第一項(同項第七号及び第十号を除く。)… ― 各本条の罰金刑」
条文が、わざわざ第7号を除くと書いています。第7号は、いま見た第13条第3項違反です。
つまり、無資格者の危険物取扱いには、法人への罰金がありません。資格は人に与えられるものなので、違反も本人の問題だ、という整理です。
| 違反 | 両罰規定 |
|---|---|
| 製造所等の無許可設置(第11条1項) | あり |
| 使用停止命令違反(第12条の2) | あり |
| 無資格者の危険物取扱い(第13条3項) | なし |
| 危険物の無資格移送(第16条の2第1項) | あり |
| 合格表示のない検定対象機械器具の販売(第21条の2第4項) | あり |
「無資格者の危険物取扱いは、両罰規定により法人も処罰できる」はまちがいです。
試験事務の指定 ― 欠格は「消防法」違反だけ
危険物取扱者試験は、総務大臣が指定した団体が行います。その指定を受けられない場合(欠格事由)が条文に並んでいます。
「総務大臣は、…申請をした者が、次のいずれかに該当するときは、…指定をしてはならない。
一 一般社団法人又は一般財団法人以外の者であること。
二 この法律に違反して、刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から起算して二年を経過しない者であること。
三 …指定を取り消され、その取消しの日から起算して二年を経過しない者であること。」
ポイントは第2号の「この法律に違反して」という言葉です。この法律、つまり消防法です。
刑法に違反して刑を受けた人は、ここには当たりません。消防法の試験を行う団体なのだから、消防法を守れたかどうかを見ている、ということです。
なお第1項には、実施計画が適切であること、経理的・技術的な基礎があること、ほかの業務で不公正になるおそれがないことが定められています。
「刑法、消防法などの法律に違反して刑に処せられた者」はまちがいです。消防法違反だけです。
適用除外 ― 航空機・船舶・鉄道・軌道
「この章の規定は、航空機、船舶、鉄道又は軌道による危険物の貯蔵、取扱い又は運搬には、これを適用しない。」
飛行機や船、電車の中での危険物のあつかいには、消防法の危険物の章は働きません。
なぜでしょうか。これらにはそれぞれ別の法律があり、専門のルールがすでに用意されているからです。二重に規制しても、現場が混乱するだけです。
外から給油するときは、消防法が働く
ここが今回いちばん問われるところです。
条文の「航空機による」というのは、航空機の中でという意味だと解されています。だとすると、こういう場面はどうでしょうか。
空港で、地上の給油車が飛行機にホースをつないで燃料を入れている。これは航空機の中の話でしょうか。
違います。給油する設備は地上にあります。だから消防法が適用されます。空港の給油施設は、給油取扱所として消防法の規制を受けます。
「航空機等に対する外部からの給油は適用除外」はまちがいです。消防法が適用されます。外部の施設へ航空機等から給油する場合も同じです。
収去 ― 「疑いのある物」まで持っていける
「市町村長等は、…危険物の貯蔵又は取扱いに伴う火災の防止のため必要があると認めるときは、…資料の提出を命じ、若しくは報告を求め、又は当該消防事務に従事する職員に、…立ち入り、…検査させ、関係のある者に質問させ、若しくは試験のため必要な最少限度の数量に限り危険物若しくは危険物であることの疑いのある物を収去させることができる。」
収去とは、検査や試験のために、必要な分だけ強制的に持っていくことをいいます。
注目してほしいのは「危険物であることの疑いのある物」という言葉です。条文がはっきりこう書いているので、収去できるのは許可された品名のものに限られません。
考えてみれば当たり前です。収去は「これは何だろう」と確かめるためのもの。中身がわかっているものしか持っていけないのでは、意味がありません。
そして持っていくのは「試験のため必要な最少限度の数量」のごく微量です。だから、憲法第29条の財産権を侵すものではないと考えられています。
「収去できるのは設置申請に係る品名の危険物だけ」はまちがいです。品名には限られません。
走行中のタンクローリーを止められる人
「消防吏員又は警察官は、危険物の移送に伴う火災の防止のため特に必要があると認める場合には、走行中の移動タンク貯蔵所を停止させ、当該移動タンク貯蔵所に乗車している危険物取扱者に対し、危険物取扱者免状の提示を求めることができる。この場合において、消防吏員及び警察官がその職務を行なうに際しては、互いに密接な連絡をとるものとする。」
タンクローリー(移動タンク貯蔵所)は走り回るので、施設に立ち入る方法では確かめられません。そこで、走行中でも止められるようにしています。
止められるのは消防吏員と警察官の2つです。道路の上での話なので、警察も出てきます。
圧縮アセチレンガス等は、あらかじめ届出
「圧縮アセチレンガス、液化石油ガスその他の火災予防又は消火活動に重大な支障を生ずるおそれのある物質で政令で定めるものを貯蔵し、又は取り扱う者は、あらかじめ、その旨を所轄消防長又は消防署長に届け出なければならない。ただし、船舶、自動車、航空機、鉄道又は軌道により貯蔵し、又は取り扱う場合その他政令で定める場合は、この限りでない。」
圧縮アセチレンガスや液化石油ガスは、消防法でいう「危険物」ではありません。別の法律で規制されています。
それでも消防に届け出てもらうのはなぜでしょうか。火事のときに、そこに何があるか消防が知らないと危ないからです。ボンベが並んでいる場所に、何も知らずに放水しに入っていくわけにはいきません。
届出先は所轄消防長または消防署長。そして第2項により、やめるときも同じく届け出ます。
「消防法以外の規制があるので消防署に届け出る必要はない」はまちがいです。ほかの法律があっても、消防への届出は必要です。
市町村条例が受け持つもの
最後に、消防法そのものではなく市町村条例が決めているものを整理しておきます。
- 火を使う設備・器具等の規制(施行令で定める基準に従って条例で定める)
- 指定数量未満の危険物の貯蔵・取扱いの技術上の基準
- 指定可燃物の貯蔵・取扱いの技術上の基準
第17回の冒頭で見た指定数量が、ここでも境目になります。指定数量以上は法律(消防法)、未満は条例。地域によって事情が違うので、少ない量は地元で決めてよい、という考え方です。
丙種は不可。無資格取扱いには両罰規定がない
試験事務の指定。刑法違反は含まれない
適用除外は航空機・船舶・鉄道・軌道によるもの
📒 この記事のまとめ
資格の線引きと、法律の切れ目。この2つで整理できます。
- 危険物保安監督者は甲種・乙種で6月以上の実務経験がある者から定める(第13条1項)。定めたとき・解任したときは遅滞なく市町村長等へ届出
- 無資格者の取扱いに立ち会えるのは甲種・乙種のみ。丙種は立会いができない(第13条3項)
- 無資格者の危険物取扱いは第42条1項7号で処罰されるが、第45条3号が7号を除いているため法人への両罰規定はない
- 試験事務の指定の欠格は「この法律」=消防法違反に限られ、刑法違反は含まれない(第13条の6第2項2号)
- 適用除外は航空機・船舶・鉄道・軌道による貯蔵・取扱い・運搬。外部からの給油は消防法が適用される(第16条の9)
- 収去は「危険物であることの疑いのある物」も対象で、許可品名に限られない。数量は試験のため必要な最少限度(第16条の5第1項)
- 走行中の移動タンク貯蔵所を停止させ免状の提示を求められるのは消防吏員又は警察官(第16条の5第2項)
- 圧縮アセチレンガス・液化石油ガス等は、あらかじめ所轄消防長又は消防署長に届出。廃止時も同じ(第9条の3)
これで消防法の第9章まで終わりました。
確認問題(全5問)
問 1
危険物取扱者に関する記述のうち、妥当なものはどれか。
- 危険物取扱者以外の者は、丙種危険物取扱者が立ち会えば危険物を取り扱うことができる。
- 危険物保安監督者は、甲種又は乙種危険物取扱者で6月以上の実務経験を有する者のうちから定める。
- 危険物保安監督者は、丙種危険物取扱者のうちからも定めることができる。
- 危険物保安監督者を定めたときは、市町村長等への届出は不要である。
- 危険物取扱者以外の者は、立会いの有無にかかわらず危険物を取り扱うことができない。
💡 ヒント
名札に手が届かなかったのは、どの免状を持った人でしたか。
✅ 正解と解説を見る
正解:B
第13条第1項のとおりです。立会いができるのは甲種・乙種のみ(第3項)、選任・解任時は遅滞なく市町村長等へ届け出ます(第2項)。
問 2
次の消防法違反の事案のうち、両罰規定により法人に対して処罰を求めることのできないものはどれか。
- 製造所等の無許可設置(第11条第1項)
- 製造所等の使用停止命令違反(第12条の2)
- 危険物の無資格移送(第16条の2第1項)
- 無資格者の危険物の取扱い(第13条第3項)
- 合格表示のない検定対象機械器具の販売(第21条の2第4項)
💡 ヒント
5本の矢印のうち、1本だけ途中で切れていました。
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正解:D
無資格者の危険物取扱いは第42条第1項第7号に当たりますが、第45条第3号が「同項第七号及び第十号を除く」としているため、法人への両罰規定がありません。
問 3
危険物取扱者試験事務を行わせる場合の総務大臣の指定要件について、誤っているものはどれか。
- 一般社団法人又は一般財団法人であること。
- 指定を取り消され、その取消しの日から起算して2年を経過した者であること。
- 刑法、消防法などの法律に違反して刑に処せられ、その執行を終わった日から起算して2年を経過した者であること。
- 事務の実施に関する計画が、適正かつ確実な実施に必要な経理的・技術的基礎を有するものであること。
- 試験事務以外の業務を行っている場合には、試験事務が不公正になるおそれがないこと。
💡 ヒント
門の右側に置かれていた本には、何と書いてありましたか。
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正解:C
第13条の6第2項第2号は「この法律に違反して」としており、消防法違反に限られます。刑法違反は該当しません。
問 4
消防法に定める危険物に関わる規制の適用除外について、誤っているものはどれか。
- 航空機による危険物の貯蔵・取扱い
- 船舶による危険物の貯蔵・取扱い
- 鉄道又は軌道による危険物の貯蔵・取扱い
- 航空機・船舶・鉄道・軌道による危険物の運搬
- 航空機等に対する外部からの給油
💡 ヒント
飛行機の絵で、赤い線で囲まれていたのはどこでしたか。
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正解:E
適用除外は航空機・船舶・鉄道・軌道による貯蔵・取扱い・運搬です(第16条の9)。外部からの給油は設備が地上にあり、消防法が適用されます。
問 5
消防法第16条の5に定める危険物の収去に係る記述のうち、誤っているものはどれか。
- 収去することができるのは、製造所等の設置申請に係る品名の危険物だけである。
- 貯蔵・取扱い中の危険物が、許可された品名と同一のものであるかを試験するためのものである。
- 許可された危険物が変質等により危険な状態になっていないかを試験するためのものである。
- 収去は、試験のため必要な最少限度の数量に限られる。
- ごく微量であること等から、憲法第29条の財産権の侵害とはならないと考えられている。
💡 ヒント
職員は、ラベルのないドラム缶からも試験管に取っていました。
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正解:A
条文は「危険物若しくは危険物であることの疑いのある物」と規定しています。何であるかを確かめるための制度なので、許可に係る品名には限られません。


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