今回から、救急の科目に入ります。第1回のテーマは「救急業務の法的根拠」です。
救急というと、心肺蘇生や外傷の手当てといった「医療の話」を思い浮かべるかもしれません。ところが試験でまず問われるのは、そこではありません。「その仕事は、どの法律に書いてあるのか」です。
この分野には、はっきりした特徴があります。それは、似ている法律どうしを入れかえた選択肢が並ぶこと。消防法・救急救命士法・医療法は、どれも救急に関係する法律です。だからこそ「どれが何を決めているか」がぼんやりしていると、もっともらしい選択肢に引っかかります。
「根拠になる法律はどれか」を意識しながら読む ― これが今回の合言葉です。
そもそも救急業務って何?
救急業務を定めているのは、消防法です。医療法でも、救急救命士法でもありません。まずここが出発点になります。
救急業務とは、災害により生じた事故もしくは屋外その他総務省令で定める場所において生じた事故、または政令で定める疾病による傷病者のうち、医療機関その他の場所へ緊急に搬送する必要があるものを、救急隊によって医療機関等に搬送することをいう。
つまり、この条文は次の2つを決めています。
- どんな人を運ぶのか(対象)
- その人をどうするのか(内容)
運ぶ対象は、大きく3つ
- ① 災害によって起きた事故でけがをした人
- ② 屋外や、人が出入りする場所で起きた事故でけがをした人
- ③ 命に危険がある病気などで、ほかに適当な運ぶ手段がない人
③がポイントです。病気であっても、自分で病院に行ける、家族の車で行ける、という場合は原則として対象外です。「ほかに手段がない」ことが条件になっています。
救急業務の「本体」は搬送
ここで、この章でいちばん大事な考え方が出てきます。
救急業務の本体は「運ぶこと(搬送)」です。
運んでいる途中の応急処置は、この業務のなかに含まれます。しかし、救急救命士が行う救急救命処置は、消防法第2条第9項の救急業務の定義そのものではありません。あれは救急救命士法という別の法律にもとづく行為です。
たとえるなら、救急業務は「病院まで安全に送りとどける運送の仕事」。救急救命処置は、その運送にあとから付け加えられた特別な資格の仕事です。同じ救急車の中で同時に行われていても、よりどころにしている法律がちがう、ということです。
ここを分けて理解しておくと、「救急救命士の処置も救急業務の定義に含まれる」という選択肢を、落ち着いて切ることができます。
なお、消防法第1条の目的にも「災害等による傷病者の搬送を適切に行うこと」が挙げられています。救急業務が消防法に置かれているのは、この目的があるからです。
「救急業務を定義する法律は医療法である」はまちがい。正しくは消防法第2条第9項です。
救急救命士と救急隊 ― 誰が、何をできるのか
ここからは「人」の話です。誰が救急隊をつくり、その隊は何ができて、救急救命士はどこまでやってよいのか。
救急隊の編成は「努める」=努力義務
まず、隊のつくり方です。
消防長は、救急救命士の資格をもつ隊員によって救急隊を編成するよう「努める」ものとされています。
この「努める」という言い方が重要です。法律の世界では、はっきり使い分けられています。
- 「〜しなければならない」= 必ずやる(義務)
- 「〜するよう努めるものとする」= できるだけそうする(努力義務)
学校でいえば「宿題は必ず出すこと」と「できれば予習してくること」のちがいのようなものです。
救急救命士の資格をもつ隊員は、どの本部にも十分にいるとはかぎりません。そこで「必ず」ではなく「努める」という書き方になっています。
この分野では、この「努める」の見落としがそのまま失点につながります。選択肢に「努める」と書いてあるか、「しなければならない」と書いてあるかを、必ず目で追ってください。
救急隊にみとめられている2つの権限
救急隊には、活動をやりとげるための特別な権限があります。
- 協力を求めることができる:救急隊員は、緊急の必要があるときは、現場に居合わせた人に対して救急業務への協力を求めることができます
- 通れない道を通れる:救急隊は、現場に着くために緊急の必要があるときは、一般の交通の用に供しない通路(ふだん一般の車が通らない専用道路や構内の通路など)を通行できます
どちらも「急ぐ必要があるとき」という条件がついている点が共通しています。
都道府県知事が、自ら救急業務を行うことがある
都道府県知事は、救急業務を行っていない市町村で、交通事故等によって救急業務が必要になった場合、自ら救急業務を行うことができます。
救急業務は本来、市町村が行うものです。しかし、行っていない市町村で事故が起きたとき、そこに住む人が救われないのでは困ります。そのすき間を埋めるための仕組みだと考えてください。
航空機の救急隊は、救急自動車と「同じ」ではない
隊の編成基準で、まちがえやすいのがここです。
- 救急自動車による救急隊:救急自動車1台+救急隊員3名以上
- 航空機による救急隊:救急自動車と同一ではない
飛ぶ乗り物と走る乗り物では、乗せられる人数も、必要な役割もちがいます。それなのに「航空機による救急隊の編成は、救急自動車と同様、機体1機及び救急隊員3名以上でなければならない」と書かれた選択肢は、「同様」の一言でまちがいになります。
救急救命士の処置 ― 医師の指示がいるもの、いらないもの
ここが救急救命士法のいちばんの山場です。救急救命士が行う処置には、医師の具体的な指示が必要なものと、必要でないものがあります。
医師の具体的指示が必要なもの(特定行為)は、大きく3つのグループに分かれます。
- ① 乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保および輸液(うでの血管に管を入れて点滴すること)
- ② 器具による気道確保(のどをふさがせず、空気の通り道を確保すること)
- ③ アドレナリンの投与(心臓のはたらきを立て直すための薬を入れること)
このうち②は、「気管内チューブだけ」と思いこみやすいところです。気道確保に使う器具は1種類ではありません。
- 食道閉鎖式エアウェイ・ラリンゲアルチューブ(LT) ― のどの奥まで入れ、食道側をふさいで、空気を肺のほうへ送りこむ管
- ラリンゲアルマスク(LM) ― のどの奥で、声帯の入口にふたをかぶせるように当てて空気を送る器具
- 気管内チューブ ― 気管そのものに直接管を入れる方法。最も確実ですが、最も難しい方法です
この3つは、いずれも特定行為です。つまり、どれを使う場合でも医師の具体的指示が必要になります。
なお、③のうち気管内チューブによるものは、さらに別に認定を受けた救急救命士でなければ行えません。器具のなかでも一段ハードルが高い、という位置づけです。
医師の具体的指示を要しないものは、次の2つが代表です。
- AED(半自動式除細動器)による除細動(電気ショック)
- パルスオキシメータの装着(指にはさんで血液中の酸素の量をはかる機械)
ちがいは、体の中に器具や薬を入れるかどうか、そしてまちがえたときの危険の大きさです。血管に管を入れる、のどに器具を入れる、薬を注射する ― これらは失敗したときの影響が大きいので、医師の具体的な指示が求められます。一方、AEDや指にはさむ機械は、体の中に入れるものではありません。
「救急救命士が実施するすべての行為で医師の具体的指示を要する」も、「器具による気道確保の特定行為は気管内チューブによるものに限られる」も、どちらもまちがいです。
心肺機能停止「前」の人にもできる処置がある
処置できる範囲は、その後ひろがりました。心臓や呼吸が止まる前の傷病者に対しても、医師の具体的指示のもとで、次の処置ができます。
- 乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保および輸液
- 血糖測定を伴うブドウ糖溶液の投与(血糖値をはかったうえで、糖分を入れること)
つまり、以前は「心臓が止まってから」が中心でしたが、止まる前にも手を打てるようになった、ということです。
救急現場以外でも処置を行う場合がある
救急救命士が処置を行う場所は、原則として救急現場と搬送途上(救急自動車の中など)です。ただし、これには例外があります。
代表的なのが病院実習です。救急救命士は、資格を取るための実習や、資格を取ったあとの再教育(生涯教育)として、医療機関で医師の指導のもとに処置を行います。ここは救急現場ではありませんが、きちんと認められた場面です。
また、傷病者を医療機関へ搬送したあと、入院するまでの間(救急外来など)にも処置を行うことができます。
ですから「救急現場以外の場所では一切処置できない」というのは、言い切りすぎでまちがいです。「原則は現場と搬送途上。ただし病院実習など例外がある」と押さえてください。
資格を失う場合と、罰則
- 罰金以上の刑に処せられた者は、欠格事由(資格を持てない理由)に該当しうる
- 救急救命処置録の保存義務違反は、罰則の対象
処置の記録は、あとから「本当に適切だったか」を確かめるためのものです。だから、残さないこと自体が罰の対象になります。
救急業務実施基準と記録 ― 運ばない場合・伝える相手・書き方
救急業務は「呼ばれたら運ぶ」だけではありません。運ばない場合もあり、運んだあとに伝える相手も決まっています。
運ばない場合がある
- 傷病者が明らかに死亡している場合
- 医師が死亡していると診断した場合
この2つにあたるときは、搬送しません。
救急業務は「医療機関へ緊急に搬送する必要があるもの」が対象でした。すでに亡くなっていることがはっきりしている場合は、その「必要」がありません。定義からたどると、自然に理解できます。
同乗と連絡 ― どちらも「努める」
- 傷病者の関係者または警察官が同乗を求めたときは、努めてこれに応ずる
- 隊員は、傷病の状況により必要があると認めるときは、家族等に傷病の程度・状況等を連絡するよう努める
ここでも「努める」が出てきます。現場の状況によっては、そうできないこともあるからです。
災害救助法が適用されても、「基づくことなく」実施する
大きな災害が起きると、災害救助法という法律が適用されることがあります。このとき、市町村の消防機関が行う救急業務はどうなるのか。答えは、
災害救助法が適用される場合であっても、同法の規定に「基づくことなく」実施する
です。
消防機関の救急業務は、もともと消防法という自分の足で立っています。災害救助法が適用されたからといって、根拠法が乗りかわるわけではありません。
「災害救助法が適用される場合においては、同法の規定に基づいて実施する」という選択肢は、この点でまちがいです。「基づくことなく」の一語が勝負どころになります。
生活保護法の被保護者を運んだら、福祉事務所へ
消防長は、生活保護法に定める被保護者または要保護者と認められる傷病者を搬送した場合には、福祉事務所に通知します。
医療費の負担など、そのあとの支援につなげる必要があるためです。通知先が「保健所」でも「都道府県」でもなく、福祉事務所である点を押さえてください。
記録票に求められる4つの要素
救急活動記録票に求められるものは、次の4つです。
- 守秘性 ― 他人に知られてはいけない情報を守ること
- 客観性 ― 見た人によって受け取り方が変わらないよう、事実を書くこと
- 保存性 ― あとから読み返せるように残すこと
- 正確性 ― まちがいがないこと
そして、ここに「推測性」は含まれません。
記録は、あとで検証したり、病院に引きつぐために使われます。そこに「たぶんこうだったと思う」が混ざっていると、まちがった判断のもとになってしまいます。記録に書くのは、推測ではなく事実です。
「災害救助法が適用される場合は同法の規定に基づいて実施する」も、「記録票には推測性が求められる」も、どちらもまちがいです。
救急 第1回の3ポイント
→ 定義は第2条第9項。搬送途上の応急処置は含む。救急救命処置は救急救命士法
→ 気道確保はLT・LM・気管内チューブが特定行為。AED等は具体的指示が不要
→ 災害救助法が適用されても消防法で実施。通知先は福祉事務所
まとめ
救急の第1回は、「その仕事は、どの法律に書いてあるのか」を整理する回でした。
- 定義は消防法第2条第9項。本体は搬送、救急救命処置は救急救命士法
- 編成は「努める」=努力義務。救急自動車は隊員3名以上、航空機は同一ではない
- 気道確保はLT・LM・気管内チューブのいずれも特定行為。AED等は具体的指示が不要
- 処置の場所は現場と搬送途上が原則。病院実習などの例外あり
- 災害救助法が適用されても同法に基づくことなく実施。記録票に推測性は入らない
条文の言いまわしをほんの少しずらした選択肢が並ぶ分野です。「法律の名前」「努めるか、しなければならないか」「すべて、と言い切っていないか」― この3点を目で追う習慣をつけると、ぐっと解きやすくなります。
次回は、医療法の施設区分(病院20人以上・診療所19人以下・助産所9人以下)、感染症法の分類、救急自動車の構造基準の数値、応急手当の普及啓発と口頭指導を扱います。
確認問題(全5問)
問 1
救急業務を定義する法律として、正しいものはどれか。
- 消防法
- 医療法
- 地方自治法
- 地域保健法
- 救急救命士法
💡 ヒント
救急業務は、もともと誰の仕事として組み立てられているかを考えてください。
✅ 正解と解説を見る
正解:A
救急業務を定義しているのは消防法(第2条第9項)です。医療法は病院・診療所などの施設について、救急救命士法は救急救命士の資格と処置について定めた法律であり、救急業務そのものの定義は置いていません。
問 2
消防法第2条第9項に規定する救急業務の範囲について、妥当でないものはどれか。
- 災害により生じた事故による傷病者を搬送することは、救急業務に含まれる。
- 公衆の出入りする場所において生じた事故による傷病者を搬送することは、救急業務に含まれる。
- 傷病者を医療機関その他の場所へ緊急に搬送することは、救急業務に含まれる。
- 搬送途上において行う応急処置は、救急業務に含まれる。
- 救急救命士が行う救急救命処置は、消防法第2条第9項に規定する救急業務の定義に含まれる。
💡 ヒント
救急業務の「本体」は何であったかを思い出してください。運ぶ仕事と、資格にもとづく処置は、よりどころにしている法律がちがいました。
✅ 正解と解説を見る
正解:E
救急業務の定義の本体は「搬送」です。搬送途上の応急処置は業務に含まれますが、救急救命士が行う救急救命処置は救急救命士法にもとづく行為であり、消防法第2条第9項の救急業務の定義そのものには含まれません。
問 3
次は、救急救命士の行う救急救命処置について記述したものであるが、妥当でないものはどれか。
- 乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保及び輸液は、医師の具体的指示を必要とする。
- 器具による気道確保のうち、医師の具体的指示を必要とするものは、気管内チューブによるものに限られる。
- アドレナリンの投与は、医師の具体的指示を必要とする。
- 半自動式除細動器による除細動は、医師の具体的指示を要しない処置として位置付けられている。
- 救急救命士は、病院実習等、救急現場及び搬送途上以外の場所においても救急救命処置を行う場合がある。
💡 ヒント
気道確保に使う器具は、1種類だけだったでしょうか。LT・LMという言葉を思い出してください。
✅ 正解と解説を見る
正解:B
器具による気道確保は、食道閉鎖式エアウェイ・ラリンゲアルチューブ(LT)・ラリンゲアルマスク(LM)・気管内チューブのいずれによる場合も特定行為であり、医師の具体的指示を必要とします。「気管内チューブによるものに限られる」とする点が誤りです。
問 4
救急隊に関する記述として、妥当でないものはどれか。
- 消防長は、救急救命士の資格を有する隊員をもって救急隊を編成するよう努めるものとされている。
- 救急隊員は、緊急の必要があるときは、現場に在る者に対し、救急業務に協力することを求めることができる。
- 都道府県知事は、救急業務を行っていない市町村において交通事故により救急業務を行う必要が生じた場合には、救急業務を行うことができる。
- 航空機による救急隊の編成は、救急自動車における編成と同様、機体1機及び救急隊員3名以上でなければならない。
- 救急隊は、救急の現場に到着するために緊急の必要があるときは、一般の交通の用に供しない通路を通行することができる。
💡 ヒント
走る乗り物と飛ぶ乗り物で、必要な人数が同じになるでしょうか。「同様」という語に注意してください。
✅ 正解と解説を見る
正解:D
航空機による救急隊の編成は、救急自動車による編成(救急自動車1台及び救急隊員3名以上)と同一ではありません。「救急自動車と同様、隊員3名以上」とする点が誤りです。
問 5
救急業務実施基準及び救急活動記録に関する記述として、妥当でないものはどれか。
- 傷病者が明らかに死亡している場合又は医師が死亡していると診断した場合は、これを搬送しないものとする。
- 傷病者の関係者又は警察官が同乗を求めたときは、努めてこれに応ずるものとする。
- 市町村の消防機関が行う救急業務は、災害救助法が適用される場合においては、同法の規定に基づいて実施するものとする。
- 消防長は、生活保護法に定める被保護者又は要保護者と認められる傷病者を搬送した場合においては、福祉事務所に通知するものとする。
- 救急活動記録票に求められる要素は、守秘性、客観性、保存性及び正確性である。
💡 ヒント
消防機関の救急業務が、もともとどの法律の上に立っていたかを思い出してください。
✅ 正解と解説を見る
正解:C
災害救助法が適用される場合であっても、市町村の消防機関が行う救急業務は、同法の規定に「基づくことなく」実施します。消防機関の救急業務の根拠はあくまで消防法にあるためです。


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