予防分野は「別表第1の(6)項イ(3)が…」のように記号だらけで、苦手意識を持つ方がとても多い分野です。
でも、聞かれていることはとてもシンプルで、「その建物は何に使われているか(用途)」を正しく見分けられるか、この一点に集約されます。
用途が決まれば、どの消防用設備をつけるかが決まる。つまり用途区分は予防のすべての土台です。第1回は、この土台の部分をゆっくり整理します。
そもそも「防火対象物」と「用途区分」って何?
「防火対象物とは、山林又は舟車、船きよ若しくはふ頭に繋留された船舶、建築物その他の工作物若しくはこれらに属する物をいう。」
つまり防火対象物とは、「火事から守る対象になるもの」のこと。建物だけでなく、山林や係留された船まで含む、かなり広い言葉です。
そして消防法第17条は、「政令で定める防火対象物の関係者は、政令の基準に従って消防用設備等を設置し、維持しなければならない」と定めています。ここで「どの建物にどの設備が必要か」を決める出発点になるのが、施行令別表第1という表です。
別表第1は、いわば「建物のジャンル分け表」。(1)項の劇場から(20)項まで、建物を使いみち(用途)ごとに分類しています。映画館は(1)項イ、カラオケボックスは(2)項ニ、ホテルは(5)項イ、病院は(6)項イ、という具合です。
- 用途が決まる → 必要な設備が決まる。だから用途判定が予防の出発点
- 用途は看板や名前ではなく、実際に何をしているか(中身)で判定する
附加条例 ― 市町村が基準を「上のせ」できる
「市町村は、その地方の気候又は風土の特殊性により、前項の消防用設備等の技術上の基準に関する政令又はこれに基づく命令の規定のみによつては防火の目的を充分に達し難いと認めるときは、条例で、同項の消防用設備等の技術上の基準に関して、当該政令又はこれに基づく命令の規定と異なる規定を設けることができる。」
つまり、設備の基準は火災安全という全国共通の目的のため、政令が一律に決めています。ところが、多雪・強風・乾燥など、火災危険のあらわれ方は地域ごとに大きくちがいます。
そこで、市町村が条例で基準を「上のせ」できるようにした仕組みが附加条例(ふかじょうれい)です。
まぎらわしいところは、4つの軸で整理すると迷いません。
- 誰が作る? → 市町村(都道府県ではない)
- どんな形で? → 市町村条例(都道府県条例ではない)
- 理由は? → その地方の気候又は風土の特殊性
- どっち向き? → 強化(きびしくする)だけ。緩和(ゆるめる)はできない
なぜ緩和ができないのか。ゆるめてしまうと、全国一律で守るべき最低限の安全水準を下回ってしまうからです。
さらに、上のせできる範囲にも枠があります。附加条例で定められるのは「設置及び維持の技術上の基準」だけ。しかも対象は、政令で定める防火対象物・政令で定める消防用設備等の範囲内に限られます。
言いかえると、政令の枠の中で基準を強化することはできても、枠そのものを広げて、政令にない建物や政令にない設備に新しく義務づけることはできません。
選択肢に「緩和」「都道府県条例」「政令にない防火対象物・設備」が出てきたら、まずまちがいを疑いましょう。
みなし従属 ― 小さな「おまけ」はメインに含める
一つの防火対象物に複数の用途が混ざっているとき、原則は用途ごとに区分して扱います。
でも、ホテルの中の小さな売店のような「おまけ」の部分まで独立用途として別あつかいにすると、ごく小さな付随部分にまで独立した設備基準が及び、過剰な規制になってしまいます。
そこで、主たる用途に機能的にくっついていて、しかも規模が小さい部分は、独立用途とせずメインに含めて一つの用途とみなします。これをみなし従属といいます。
どのくらいなら「小さい」といえるのか、目安も決まっています。
- 主たる用途部分の面積が延べ面積の90%以上
- 独立した用途部分の面積が延べ面積の10%以下で、かつ300㎡未満
ただし、これを何でもかんでも認めると困ったことが起きます。人命危険の高い用途が「規模が小さいから」という理由だけで規制をのがれてしまうからです。
そこで平成27年の改正により、避難に時間を要する人が利用する用途や、宿泊を伴う用途は、従属的部分から明確に除外されました。次の5つです。
- (2)項ニ:カラオケボックス等の個室型遊興店舗
- (5)項イ:旅館・ホテル等の宿泊施設
- (6)項イ(1)〜(3):病院・有床診療所等
- (6)項ロ:自力避難困難者の入所施設(養護老人ホーム等)
- (6)項ハのうち、利用者を入居・宿泊させるもの
これらは、たとえ面積が小さくても主用途への吸収が認められません。
ザックリ覚え方は「宿泊・入所・遊興個室は、小さくても別あつかい」。
逆にいえば、この除外リストに載っていない用途であれば、規模が小さければ従属的部分になり得ます。たとえば(6)項ニの特別支援学校は除外用途に当たらないため、従属的部分を構成し得る、という整理になります。
「小規模なホテル部分は主用途に含められる」はまちがい。(5)項イは除外用途で、規模を問わず従属あつかいされません。
(2)項ニと(6)項 ― 特にまぎらわしい用途
「カラオケボックスその他遊興のための設備又は物品を個室(これに類する施設を含む。)において客に利用させる役務を提供する業務を営む店舗で総務省令で定めるもの」
つまり(2)項ニは個室型遊興店舗のことです。カラオケボックスは条文に名前が直接出ており、それ以外は総務省令(施行規則第5条第2項)で次の3つが定められています。
- 個室でインターネットを利用させ、又は漫画を閲覧させる店舗(複合カフェ・漫画喫茶)
- 店舗型電話異性紹介営業を営む店舗(テレフォンクラブ)
- 個室で映像を見せる興行場(個室ビデオ)
ここで、条文の「個室(これに類する施設を含む)」という書き方に注目してください。ここでいう個室は、壁等で完全に区画された部屋だけではなく、間仕切り等による個室に準じた閉鎖的なスペースも含みます。ネットカフェのブース席を思い浮かべると分かりやすいでしょう。
そして、重要な除外が一つあります。この区分は個室という閉鎖空間が避難遅れにつながる危険に着目したものなので、一つの防火対象物にカラオケ等を行うための個室が1か所(1室)しかないものは、(2)項ニには含まれません。
(6)項イ(医療施設)は、入院・避難の困難性に応じて(1)〜(4)に細分されます((4)は無床の診療所・助産所)。
ここで決定的に重要なのは、ベッドがある(有床)からといって、直ちに一番きびしい(6)項イ(1)になるわけではない、という点です。
特定診療科名(内科、整形外科、リハビリテーション科その他の総務省令で定める診療科名)を有し、かつ有床であっても、火災時の延焼を抑制するための消火活動を適切に実施できる体制(総務省令で定める体制)を備えていれば、(6)項イ(3)に区分されます。
つまり「有床=(6)項イ(1)」と即断するのはまちがいで、消火活動体制の有無が(1)か(3)かの分かれ目です。
このほか、(6)項の残りも整理しておきましょう。
- デイサービスセンター等の通所系・社会福祉施設 → (6)項ハ
- 幼稚園・特別支援学校 → (6)項ニ((6)項ハではない)
「個室が1室のみのカラオケルームは(2)項ニ」はまちがい。「幼稚園・特別支援学校は(6)項ハ」もまちがいで、正しくは(6)項ニです。
まよったら「中身」で判定 ― 受け皿の(15)項
(15)項(事業場)は、何らかの事業活動が行われる対象物のうち、別表第1の(1)項から(14)項までのいずれにも該当しないものを受け止める、補充的・受け皿的な区分です。
したがって判定の順序は、まず具体的な施設が特定の項に当たらないかを検討し、当たらなければ(15)項に落とす、と考えます。変電所・発電所は専用の項がないため(15)項です。
ここで注意したいのが、個室型のインターネット・漫画閲覧店舗(複合カフェ)です。一見すると事務所・サービス業として(15)項に思えますが、平成20年改正で(2)項ニに位置づけられました。「事業場だから(15)項」と短絡すると誤ります。
また、用途は看板や名称ではなく、実際の役務・取引の態様で判定します。まぎらわしい施設を整理しておきましょう。
- 物品販売店舗((4)項)→ 店頭で物品の受け渡しを行うことが前提。受注・配送のみの形態は(4)項に含まれない
- 認知症対応型老人共同生活援助施設(グループホーム)→ (6)項ロ
- 妊産婦を入所させ助産を受けさせる助産施設 → (6)項ハ
- ユースホステル → (5)項イ(宿泊施設)
(15)項は「どこにも当たらなければ、ここ」という最後の受け皿。ただし複合カフェだけは先に(2)項ニに拾われます。
予防 第1回の3ポイント
→ 市町村が市町村条例で。緩和も、政令の枠外への義務づけもできない
→ (2)ニ・(5)イ・(6)イ(1)〜(3)・(6)ロ・(6)ハ入居宿泊は、小さくても従属あつかいしない
→ 名前ではなく実態で。どこにも入らなければ受け皿の(15)項
まとめ
用途区分は、予防分野という大きな建物の「基礎工事」にあたります。記号だらけに見えても、やっていることは「この建物は何に使われているか」を見分ける作業だけです。
- 防火対象物=火事から守る対象。用途は施行令別表第1で仕分ける
- 附加条例=市町村が市町村条例で「強化」のみ。緩和はできない
- みなし従属の除外=宿泊・入所・遊興個室は規模を問わず別あつかい
- (2)項ニは個室が複数、(6)項イの(1)か(3)かは消火活動体制の有無
- (15)項は「どこにも当たらなければここ」の受け皿
次回以降に学ぶ収容人員や設備の設置基準は、すべて「この建物は何項か」から始まります。ここを押さえておくと、後の章がぐっと理解しやすくなります。
確認問題(全5問)
問 1
次は、消防法第17条第2項に規定する附加条例について述べたものであるが、正しいものはどれか。
- 附加条例は、都道府県がその区域の気候の特殊性に応じて都道府県条例として定めるものである。
- 附加条例では、政令で定める消防用設備等に関する技術上の基準を、地域の実情に応じて緩和する特例を設けることができる。
- 附加条例では、その地方の気候又は風土の特殊性により、政令で定める技術上の基準と異なる規定(強化する基準)を市町村条例で定めることができる。
- 附加条例では、政令で定める防火対象物以外の防火対象物に対しても、新たに消防用設備等の設置及び維持を義務付けることができる。
- 附加条例では、消防法施行令第7条に定める消防用設備等以外の設備についても、その設置を義務付けることができる。
💡 ヒント
「誰が作るのか」「どちら向きに動かせるのか」の2つを思い出してください。ブロックを積む絵と、下を掘る絵です。
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正解:C
制定主体は市町村であり、立法形式は市町村条例です。気候又は風土の特殊性に基づき、政令基準と異なる規定(強化基準)を定められます。緩和特例は設けられず、政令以外の防火対象物・設備への義務付けもできません。
問 2
次は、消防法施行令第1条の2第2項後段の「従属的な部分を構成すると認められるもの」の取扱いについて述べたものであるが、誤っているものはどれか。
- 別表第1(2)項ニに該当するカラオケボックスの用途に供される部分は、従属的部分から除外される。
- 別表第1(5)項イに該当するホテルの用途に供される部分は、従属的部分から除外される。
- 別表第1(6)項イ(1)から(3)までに該当する病院・有床診療所の用途に供される部分は、従属的部分から除外される。
- 別表第1(6)項ロに該当する養護老人ホームの用途に供される部分は、従属的部分から除外される。
- 別表第1(6)項ニに該当する特別支援学校の用途に供される部分は、規模の大小を問わず従属的部分から除外される。
💡 ヒント
ゲートの絵を思い出してください。止められていたのはどれで、通り抜けられたのはどれだったでしょうか。
✅ 正解と解説を見る
正解:E
除外用途は(2)項ニ・(5)項イ・(6)項イ(1)〜(3)・(6)項ロ・(6)項ハ(入居・宿泊させるもの)です。(6)項ニの特別支援学校は除外用途に当たらず、規模が小さければ従属的部分を構成し得ます。
問 3
次は、消防法施行令別表第1(2)項ニに掲げるものについて述べたものであるが、この中から該当しないものはどれか。
- 個室が複数設けられているカラオケボックス
- 個室が複数設けられている個室ビデオ店
- 個室が複数設けられている複合カフェ(インターネット・漫画閲覧店舗)
- 当該個室が1か所(1室)しか設けられていないカラオケルーム
- 個室が複数設けられているテレフォンクラブ
💡 ヒント
この区分が着目しているのは「閉じた空間で逃げおくれる危険」でした。その危険は、部屋が1つだけでも生じるでしょうか。
✅ 正解と解説を見る
正解:D
(2)項ニは個室という閉鎖空間の避難危険に着目した区分であり、一つの防火対象物に当該個室が1か所(1室)しかないものは含まれません。
問 4
次は、消防法施行令別表第1(6)項の用途区分について述べたものであるが、正しいものはどれか。
- 特定診療科名を有し、かつ療養病床又は一般病床を有する診療所は、消火活動を適切に実施できる体制を備えていても、必ず(6)項イ(1)に区分される。
- 特定診療科名を有し、かつ病床を有する診療所であっても、総務省令で定める消火活動を適切に実施できる体制を備えていれば、(6)項イ(3)に区分される。
- 幼稚園及び特別支援学校は、(6)項ハに区分される。
- デイサービスセンターは、利用者を宿泊させないため(15)項に区分される。
- 認知症対応型老人共同生活援助施設(グループホーム)は、(6)項ハに区分される。
💡 ヒント
道が2本に分かれる絵の道標には、何と書いてあったでしょうか。
✅ 正解と解説を見る
正解:B
有床であっても、消火活動を適切に実施できる体制を備えていれば(6)項イ(3)となります。「有床=(6)項イ(1)」ではありません。なお幼稚園・特別支援学校は(6)項ニ、デイサービスセンターは(6)項ハ、グループホームは(6)項ロです。
問 5
次は、消防法施行令別表第1の用途区分について述べたものであるが、誤っているものはどれか。
- 変電所及び発電所は、(1)項から(14)項までのいずれにも該当しないため、(15)項に区分される。
- 個室において客にインターネット・漫画閲覧をさせる複合カフェは、(15)項ではなく(2)項ニに区分される。
- 物品販売店舗は、店頭において物品の受け渡しを行わない形態のものであっても、(4)項に含まれる。
- 妊産婦を入所させ、助産を受けさせる助産施設は、(6)項ハに区分される。
- ユースホステルは、(5)項イに区分される。
💡 ヒント
用途は名前ではなく「中身」で判定します。お店の場合、その中身とは何をしていることでしょうか。
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正解:C
(4)項の物品販売店舗は、店頭で物品の受け渡しを行うことが該当の前提であり、受注・配送のみで店頭での受け渡しを行わない形態は(4)項に含まれません。


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