昇任試験の中心科目、消防法をここから学んでいきます。
「条文がむずかしそう…」と思いがちですが、この章で覚えることは3つだけ。「それをやっていいのは誰?」「何条に書いてある?」「相手がイヤと言ったら無理にできる?」です。
この記事では、条文を一度そのまま読んでから、「つまりどういうこと?」とかみ砕いていきます。
そもそも消防法って何?(第1条)
「この法律は、火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行い、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的とする。」
つまり、消防法は「火事を防ぎ・見張り・消して、みんなの命と財産を守るためのルールブック」です。
第1章「総則・火災予防」に書いてあるのは、①言葉の意味の決めごと(第2条)、②建物に入って危なくないか調べる「立入検査」(第4条)、③書類を出してもらう「資料提出命令」(第4条)、④危ないことをやめさせる命令(第3条・第5条など)、⑤「今日は火事が起きやすいよ」というお知らせ=火災警報(第22条)です。
このうち①〜③を今回、④⑤を次回の記事で解説します。
言葉の意味(第2条)― 2つの「対象物」
「防火対象物とは、山林又は舟車、船きよ若しくはふ頭に繋留された船舶、建築物その他の工作物若しくはこれらに属する物をいう。」
「消防対象物とは、山林又は舟車、船きよ若しくはふ頭に繋留された船舶、建築物その他の工作物又は物件をいう。」
2つの条文、ほとんど同じ文章です。ちがいは最後だけ。消防対象物には「又は物件」が付いています。
つまり、大きさのちがう2つの箱です。小さい箱が防火対象物(山や森、ふねや車、港につながれた船、建物など人が作ったもの)。それに「物件」(そのほかのモノ。庭に積まれた古新聞や木材など)まで足した大きい箱が消防対象物です。
だから「物件は防火対象物に入る」はまちがい。物件が入るのは大きい箱だけです。
では「火災」はどう決められているでしょうか。実は消防法には火災の定義がありません。実務のルール(火災報告取扱要領)にこう書かれているだけです。
「『火災』とは、人の意図に反して発生し若しくは拡大し、又は放火により発生して消火の必要がある燃焼現象であって、これを消火するために消火施設又はこれと同程度の効果のあるものの利用を必要とするもの、又は人の意図に反して発生し若しくは拡大した爆発現象をいう。」
つまり、①燃やすつもりがないのに(または放火で)燃えて、②消す必要があり、③消火設備などを使う必要がある燃え方。この3つがそろったものが実務上の「火災」です。
ただし「消防法第2条に火災の定義がある」と言われたら、それはまちがいです。
「関係者とは、防火対象物又は消防対象物の所有者、管理者又は占有者をいう。」
つまり、所有者(持ち主)・管理者(管理する人)・占有者(実際に使っている人)の3者をまとめて「関係者」と呼びます。
「小さい箱=防火対象物(建物など)」「大きい箱=消防対象物(+物件)」。火災の定義は法律にはない。
立入検査(第4条)― 中を見せてもらう仕組み
「消防長又は消防署長は、火災予防のために必要があるときは、関係者に対して資料の提出を命じ、若しくは報告を求め、又は当該消防職員にあらゆる仕事場、工場若しくは公衆の出入する場所その他の関係のある場所に立ち入つて、消防対象物の位置、構造、設備及び管理の状況を検査させ、若しくは関係のある者に質問させることができる。ただし、個人の住居は、関係者の承諾を得た場合又は火災発生のおそれが著しく大であるため、特に緊急の必要がある場合でなければ、立ち入らせてはならない。」
長い条文ですが、分解するとこうなります。
- 誰が:消防長(消防本部がない町では市町村長)又は消防署長が「調べておいで」と指示する
- 実際に入るのは:消防職員(指示する人と動く人が別)
- いつ:「火災予防のために必要があるとき」だけ。いつでも自由に、ではない
- どこに:仕事場・工場・人が出入りする場所など
そして条文の文末に注目してください。「検査させ…することができる」。これは権限付与規定(「やってもいいよ」と力をあたえる書き方)です。
あとで学ぶ火災調査の第31条は「調査に着手しなければならない」=義務付け規定(「必ずやりなさい」の書き方)。同じ調べごとでも、書き方がちがいます。
ただし書きも大事です。個人の家は別あつかいで、住んでいる人の承諾がある場合か、火災のおそれが著しく大きく特に緊急の必要がある場合しか入れません。おうちのプライバシーは大切だからです。
また、検査のときの質問は任意です。任意とは「相手がイヤと言ったら無理じいできない」ということで、断られても罰はありません。
写真撮影は第4条には書かれていませんが、事実行為(法律の効果を生まない、ただの行い)としてお願いして撮ることはできます。ただしイヤと言われたら無理に撮れず、罰もありません。
ガソリンなど危険物の許可施設を調べるときは、第4条ではなく第16条の5という別の条文を使います。
資料提出命令・報告徴収(第4条)― 書類を出してもらう仕組み
立入検査と同じ第4条の前半に、こう書かれていました。
「消防長又は消防署長は、火災予防のために必要があるときは、関係者に対して資料の提出を命じ、若しくは報告を求め…ることができる。」
つまり、「この書類を見せてください」と命令できるのも、消防長(消防本部がない町では市町村長)又は消防署長です。
まちがえやすいのが「消防本部がない町では消防団長」という言い方で、これはまちがい。正しくは市町村長です。
できるのは「火災予防のために必要があるとき」だけ。相手は関係者で、命令のしかたは紙(文書)でも口頭(口で言う)でもOKとされています。
立入検査も資料提出も「消防長(本部がない町→市町村長)又は消防署長」。団長は出てこない。
消防法 第1回の3ポイント
→ 防火対象物(小箱)に物件は入らない。消防対象物(大箱)=防火対象物+物件。火災の定義は法律にない
→ 第31条の「しなければならない」と対比。質問も写真も任意で、イヤなら無理じいできず罰もなし
→ 立入検査も資料提出も消防長・消防署長。消防本部がない町では市町村長が権限者
まとめ
消防法の入口は、「言葉の箱の大きさ」と「誰が・いつ・どこまでできるか」でした。
- 防火対象物(小箱)+物件=消防対象物(大箱)。火災の定義は法律にない(第2条)
- 立入検査は消防長・署長の指示で消防職員が行う。「できる」の権限付与規定(第4条)
- 個人の家は承諾か緊急のみ。質問・写真は任意
- 資料提出命令も消防長・署長(本部がない町→市町村長)
次回は、「危ないからやめて」と命令できる措置命令と火災警報。第3条・第4条・第5条の使い分けを整理します。
確認問題(全5問)
問 1
消防法第2条の用語の定義に関する記述のうち、誤っているものはどれか。
- 火災については、消防法上の定義は置かれていない。
- 防火対象物には、山林又は舟車、船舶、建築物その他の工作物が含まれる。
- 防火対象物には、物件が含まれる。
- 消防対象物は、防火対象物より広い概念である。
- 関係者とは、防火対象物又は消防対象物の所有者・管理者・占有者をいう。
💡 ヒント
大小2つの箱を思い出してください。「物件」が入るのは、どちらの箱だったでしょうか。
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正解:C
物件は消防対象物(大きい箱)には含まれますが、防火対象物(小さい箱)には含まれません。なお、火災には消防法上の定義がない点も合わせて押さえましょう。
問 2
消防法第2条に定める防火対象物に該当しないものはどれか。
- 建築物
- 山林
- 工作物
- 舟車
- 物件
💡 ヒント
小さい箱(防火対象物)の中身は「山林・舟車・船舶・建築物その他の工作物」。入っていないものはどれでしょう。
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正解:E
防火対象物は「山林又は舟車、船きょ若しくはふ頭に繋留された船舶、建築物その他の工作物若しくはこれらに属する物」であり、物件は含まれません。物件まで含むのは消防対象物です。
問 3
消防法第4条に定める立入検査に関する記述のうち、誤っているものはどれか。
- 立入検査は、火災予防のために必要があるときに行うことができる。
- 立入検査権の規定は、権限の所在を明示しただけの規定であり、権限行使を義務付けた規定である。
- 立入検査の質問は任意であり、拒否されても罰則の適用はない。
- 立入検査は、あらゆる仕事場・工場・公衆の出入りする場所その他関係のある場所について行うことができる。
- 個人の住居は、関係者の承諾がある場合又は緊急の必要がある場合に限り立ち入ることができる。
💡 ヒント
第4条の文末は「できる」と「しなければならない」のどちらだったでしょうか。義務付けの書き方だったのは第31条です。
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正解:B
第4条は「検査させることができる」という権限付与規定(「やってもいいよ」の書き方)です。「調査に着手しなければならない」という義務付け規定は火災調査の第31条であり、立法形式が異なります。
問 4
消防法第4条に定める立入検査における写真撮影等に関する記述のうち、誤っているものはどれか。
- 写真撮影は、第4条の立入検査の機能そのものには含まれていない。
- 写真撮影は、消防組織法第1条を根拠に事実行為として行うことができる。
- 立入検査の拒否に際し消防職員に暴行を加えた場合、公務執行妨害罪が成立し得る。
- 写真撮影は、関係者から拒否された場合でも強行することができ、罰則の適用をもって対処できる。
- 立入検査の質問は任意行為であり、拒否されても罰則の適用を求めることはできない。
💡 ヒント
「任意」の意味を思い出してください。相手にイヤと言われたら、どうするのが正解だったでしょうか。
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正解:D
写真撮影は事実行為として行えますが、拒否された場合に強行することはできず、罰則もありません。「強行できる・罰則で対処できる」とする記述は誤りです。
問 5
消防法第4条の資料提出命令権に関する記述のうち、誤っているものはどれか。
- 資料提出命令の権限を有するのは消防長又は消防署長であり、消防本部を置かない市町村においては消防団長である。
- 命令の相手方である「関係者」とは、一般的・抽象的に関係があれば足りる。
- 提出させる資料は、一般的・抽象的な一切の文書図画である。
- 命令の方法は、状況により文書又は口頭のいずれでも差し支えない。
- 資料提出命令は、火災予防のために必要があるときに行うことができる。
💡 ヒント
消防本部がない町で権限を持つのは、消防団長だったでしょうか。それとも…
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正解:A
消防本部を置かない市町村では、権限者は市町村長です。消防団長ではありません。


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