第5回:自治事務と法定受託事務はどう違う?地方公共団体の事務と国の関与をやさしく解説

地方自治法
自治事務と法定受託事務 ― 地方公共団体の事務と国の関与をやさしく解説

これまで、地方公共団体の種類、住民の権利、条例と規則、議会と執行機関の役割分担を見てきました。

今回は、地方公共団体が担う「仕事(事務)」そのものの話です。「地方公共団体の仕事」と一口に言っても、実はすべてが同じ性質ではありません。かつては機関委任事務という仕組みがありましたが、これは廃止され、今の仕事は「自治事務」と「法定受託事務」の2種類に整理されています。

この2つの違いと、国がどこまで口を出せるのかを見ていきましょう。

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そもそも「地方公共団体の事務」ってなに?

平成12年に施行された地方分権改革によって、それまであった「機関委任事務」(国の仕事を地方の長に委任して処理させる仕組み)は廃止されました。

そもそも地方公共団体の事務ってなに?かつては機関委任事務(国と地方の長の上下関係)があったが廃止。今は自治事務と法定受託事務の2つに整理。平成12年施行の地方分権改革で整理された
機関委任事務は廃止済み。今は2つの事務に整理されている

機関委任事務は、国と地方公共団体が「上司と部下」のような上下関係にあることの根拠にもなっていました。この仕組みが廃止されたことで、地方公共団体は国から独立した、対等な立場に近づいたと言えます。

廃止後、地方公共団体が処理する仕事は「自治事務」「法定受託事務」の2種類に整理し直されました。次のセクションから、それぞれの中身を見ていきます。

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自治事務ってなに?

自治事務には、実は「これが自治事務です」という積極的な定義がありません。「法定受託事務ではないもの」という、いわば引き算で定義されています(地方自治法第2条8項)。

自治事務は引き算で決まる。地方公共団体の仕事全体から法定受託事務を引いた残りが自治事務。都市計画、ごみ処理、子育て支援、図書館などが例
自治事務=法定受託事務以外のすべて

たとえば、都市計画やごみ処理、子育て支援、公立図書館の運営など、地域の実情に応じて地方公共団体が自分の判断で行う仕事の多くが自治事務にあたります。

「これは自治事務ですか?」と聞かれて迷ったら、まず「法定受託事務のリストに載っているか」を考えると判断しやすくなります。載っていなければ、それはすべて自治事務です。

⚠ ひっかけ注意

自治事務は「積極的に定義された仕事のリスト」ではありません。「法定受託事務以外はすべて自治事務」という引き算の考え方を押さえておきましょう。

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法定受託事務ってなに?

法定受託事務とは、本来は国(または都道府県)が果たすべき役割に関する仕事だけれど、法律や政令によって「地方公共団体が処理すること」と決められている仕事です。

法定受託事務は国から預かった仕事。本来は国(または都道府県)の役割だが、法律・政令により地方公共団体が処理する事務。戸籍、パスポートの発給、国政選挙の管理などが代表例。条例も定められるし、議会も原則として検査できる
戸籍・パスポート・国政選挙の管理が代表例

戸籍、パスポートの発給、国政選挙の管理などが代表例です(第3回記事でも触れた内容です)。ここで大事な注意点が2つあります。

1つ目は、法定受託事務についても条例を定めることができるということ。2つ目は、議会は原則として法定受託事務についても検査・監査を行えるということです。「法定受託事務は国の仕事だから、地方は口を出せない」というのは誤りです。

⚠ ひっかけ注意

「法定受託事務には条例を定められない」「議会は法定受託事務を一切検査できない」はどちらも誤り。条例も議会の検査も、両方の事務に及びます

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国は自治事務にどこまで関与できる?

自治事務は地方公共団体が自分の責任で行う仕事ですが、だからといって国がまったく関与できないわけではありません。

国の関与はアドバイスまで。国は自治事務にも是正の勧告・技術的な助言ができる。ただし関与は法律の根拠が必要(法定主義)で、必要最小限度にとどまる。国は口出しはできるが、指図はできない
国は口出しはできるが、指図はできない

国は、自治事務に対しても「是正の勧告」「技術的な助言」を行うことができます(地方自治法第245条の6等)。「自治事務には国は一切関与できない」というのは誤りです。

ただし、この関与には歯止めがあります。国の関与は「法定主義」(法律またはそれに基づく政令の根拠が必要)と「必要最小限度の原則」の下に置かれており、かつてのような上下関係に基づく包括的な指揮監督権は否定されています。

また、自治事務の処分に不服がある人は、行政不服審査法などにより不服申立てをすることができます。「自治事務だから一切不服申立てできない」というのも誤りです。

たとえるなら、自治事務は「子どもに任された家事」のようなものです。親(国)は口出しできますが、あくまで「アドバイス」や「軌道修正のお願い」程度にとどまり、家事のやり方を全部指図する権限は持っていません。

⚠ ひっかけ注意

「自治事務に対して国は是正の勧告などを行えない」「国は自治事務に包括的な指揮監督権を当然に有する」はどちらも誤り。関与はできるが、法定主義・必要最小限度の範囲に限られます

自治事務と法定受託事務、まとめて比較。定義・条例・議会の検査・国の関与の4項目を比較。条例も議会検査もどちらの事務にも及ぶ、が最重要ポイント
条例も議会検査も、どちらの事務にも及ぶ
★ ここだけ覚えればOK ★ 地方公共団体の事務は3カードで!
機関委任事務は廃止

自治事務=法定受託事務以外のすべて(引き算で定義)

条例・議会検査は両方に及ぶ

法定受託事務にも条例OK・議会の検査OK

国の関与は限定的

是正の勧告・技術的助言まで。包括的指揮監督権はNG

📒 この記事のまとめ

かつての機関委任事務は廃止され、地方公共団体の事務は「自治事務」と「法定受託事務」の2種類に整理されています。

  • 機関委任事務は廃止済み(平成12年施行の地方分権改革)
  • 自治事務=法定受託事務以外のすべて(引き算の定義)
  • 法定受託事務にも条例を定められ、議会も原則として検査できる
  • 国は自治事務にも是正の勧告・技術的助言ができるが、法定主義・必要最小限度の範囲に限られ、包括的な指揮監督権は否定されている

「機関委任事務は廃止」「自治事務=法定受託事務以外」「条例・議会検査は両方に及ぶ」「国の関与は限定的」の4点を、セットで覚えておきましょう。

📝 CHECK

確認問題(全5問)

問 1

地方自治法が定める地方公共団体の事務に関する記述として、誤っているものはどれか。

  1. 現在では機関委任事務は廃止されている
  2. 自治事務は、法定受託事務以外の事務と定められている
  3. 法定受託事務に関して条例を定めることができる
  4. 自治事務に対して国は是正の勧告などを行えない
💡 ヒント

国は自治事務にまったく関与できない、という説明でしたか。

✅ 正解と解説を見る

正解:D

自治事務に対しても、国は是正の勧告や技術的な助言を行えます(自治法第245条の6等)。「行えない」とするDが誤りです。機関委任事務は廃止され、自治事務は法定受託事務以外、法定受託事務にも条例を定められます。

問 2

自治事務と法定受託事務の取扱いに関する記述として、妥当なものはどれか。

  1. 条例の制定は、自治事務では可能だが法定受託事務では不可能である
  2. 地方議会の検査は、自治事務には原則及ぶが法定受託事務には及ばない
  3. 国の是正の勧告は、自治事務に対しても行うことができる
  4. 自治事務の処分に不服がある者は、審査請求ができない
💡 ヒント

条例・議会の検査は「両方の事務」に及ぶ、と本文で整理していました。

✅ 正解と解説を見る

正解:C

国は自治事務に対しても是正の勧告ができます。条例は両事務に制定可能(Aは誤り)、議会の検査も両事務に原則及び(Bは誤り)、処分に不服があれば審査請求もできます(Dは誤り)。

問 3

地方公共団体の事務に関する記述として、妥当なものはどれか。

  1. 機関委任事務は現在も国の事務として存続している
  2. 自治事務とは、法定受託事務以外の事務をいう
  3. 法定受託事務には条例を定めることができない
  4. 法定受託事務は地方公共団体に固有の事務である
💡 ヒント

自治事務の定義は「引き算」でしたね。何から何を引いた残りでしたか。

✅ 正解と解説を見る

正解:B

自治事務は法定受託事務以外の事務と定義されます(自治法第2条第8項)。機関委任事務は廃止済み(Aは誤り)、法定受託事務にも条例を定められ(Cは誤り)、法定受託事務は本来国等の役割に係る事務です(Dは誤り)。

問 4

国の関与に関する記述として、誤っているものはどれか。

  1. 国は、自治事務に対しても技術的な助言を行うことができる
  2. 国の関与は、法律またはこれに基づく政令の根拠を要する
  3. 国は、自治事務に対して包括的な指揮監督権を当然に有する
  4. 国の関与は、必要最小限度のものでなければならない
💡 ヒント

地方分権改革によって、国と地方の関係はどう変わりましたか。

✅ 正解と解説を見る

正解:C

地方分権改革により、国の関与は法定主義・必要最小限度の原則の下に置かれ、上下関係に基づく包括的な指揮監督権は否定されました。「当然に有する」とするCが誤りです。

問 5

自治事務の処分に不服がある住民の対応に関する記述として、妥当なものはどれか。

  1. 自治事務は地方公共団体の裁量に委ねられているため、不服申立ての制度は一切利用できない
  2. 行政不服審査法等に基づき、不服申立てをすることができる
  3. 不服申立てができるのは法定受託事務の処分に限られる
  4. 不服申立てをするには、必ず国の許可を得なければならない
💡 ヒント

「自治事務だから」と特別扱いされて、不服申立ての道が閉ざされるわけではありません。

✅ 正解と解説を見る

正解:B

自治事務の処分に不服がある者は、行政不服審査法等により不服申立てができます。「自治事務だから一切できない」「法定受託事務に限られる」「国の許可が必要」は、いずれも誤りです。

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