前回は行政行為の前半戦として、「行政行為とは何か・許可や特許などの種類・公定力などの効力」を学びました。
今回は後半戦。行政行為につく「おまけの条件」=附款(ふかん)、行政行為にキズがあった場合の瑕疵(かし)、そして問題集で繰り返し問われる取消しと撤回の違いを扱います。
どれも「言葉はいかつく見えるのに、中身はシンプル」なテーマです。たとえ話でサクッと押さえましょう。
附款 ― 行政行為につく「ただし書き」
附款とは、「行政行為の主たる意思表示に付け加えられる、従たる意思表示」です。
むずかしく聞こえますが、要は「営業を許可する。ただし〜」の「ただし」以下の部分。本体(許可)におまけの条件がくっついているイメージです。
附款を付けられるのは、行政庁の意思表示を中身とする法律行為的行政行為だけで、しかも裁量が認められる範囲内に限られます。確認や公証のような準法律行為的行政行為には付けられません(意思の入り込む余地がないからです)。
附款は次の5種類。頭文字で「条・期・負・撤・除」と覚えましょう。
- 条件:効果の発生・消滅を、来るかどうか不確実な事実にかからせるもの。効果が発生する側が停止条件、消滅する側が解除条件
- 期限:効果の発生・消滅を、来ることが確実な事実(日付など)にかからせるもの
- 負担:本体の効果とは別に、相手方に義務を命じるもの。負担に従わなくても、本体の効力が当然に失われるわけではないのがポイント
- 撤回権の留保:「〜の場合は撤回できる」とあらかじめ予約しておくもの。ただし留保があっても、無条件に撤回できるわけではありません
- 法律効果の一部除外:法律が定めた効果の一部を発生させないもの。法律に根拠が必要です
法律が効果の発生要件を直接定めている場合(いわゆる法定附款)は、行政庁の意思表示ではないので学問上の附款ではありません。また「受理」は準法律行為的行政行為の一種であり、附款ではありません。5種に紛れ込ませる出題に注意です。
瑕疵ある行政行為 ― 「無効」と「取り消しうる」の分かれ目
瑕疵(かし)とは、行政行為のキズのこと。違法だったり、不当だったりする状態です。
ここで大事なのは、キズがあれば何でも無効になるわけではない、ということ。分かれ目はキズの重さです。
瑕疵が「重大かつ明白」なら無効。誰の取消しも待たずに、はじめから効力がありません。公定力も不可争力も生じないので、出訴期間に関係なく争えます。
そこまで至らないキズなら「取り消しうる」にとどまり、権限ある機関に取り消されるまでは一応有効として扱われます(前回学んだ公定力ですね)。
瑕疵の中身は、大きく手続の瑕疵と形式の瑕疵に分かれます。問題集では「どちらに振り分けるか」がよく問われます。
- 手続の瑕疵:踏むべき手続を踏んでいない。聴聞や弁明の機会を与えなかった、必要な他機関との協議を欠いた、など
- 形式の瑕疵:出来上がった文書のかたちに不備がある。書面によるべきなのに口頭で行った、法律が要求する理由の付記を欠いた、署名・日付を欠いた、など
「進め方のミス=手続」「書面のかたちのミス=形式」とイメージすると振り分けやすくなります。
もうひとつ、瑕疵の分野で有名なのが「事実上の公務員の理論」です。
ある公務員の任命行為が実は無効だったとします。では、その人がそれまでに行った処分もすべて無効になるのでしょうか? 答えはノー。その人を公務員だと信頼して行われた行為は、有効なものとして扱われます。相手方の信頼と法的安定性を守るためです。
「任命が無効な公務員の行った行為は、常にすべて無効となる」は誤り。事実上の公務員の理論により有効と扱われます。また「理由付記の欠如は手続の瑕疵」も誤り(形式の瑕疵)です。
取消しと撤回 ― 似ているようで全然違う
どちらも「行政行為の効力を失わせる」点は同じですが、理由・効果・できる人がすべて違います。ここは問題集頻出の対比ポイントです。
取消し=生まれたときからキズがあった(原始的瑕疵)場合。効力は成立時にさかのぼって消えます(遡及効)。処分庁のほか、監督庁も職権で取り消せます(争いを裁く行為など例外を除く)。
撤回=生まれたときは適法だったが、あとから事情が変わった(後発的事情)場合。効力は将来に向かってのみ消えます。行えるのは処分庁のみで、監督庁は法律に特別の定めがない限り撤回できません。
たとえるなら、取消しは「最初から不良品だったのでレシートの日までさかのぼって返品」、撤回は「買ったときは問題なかったが、事情が変わったので今日以降の契約を解約」というイメージです。
なお、条文上は「取消し」と書かれていても、中身は撤回、というケースがよくあります(免許の「取消し」処分など)。名前ではなく、原因が最初からか・あとからかで実質判断しましょう。
「撤回は監督庁も当然に行える」は誤り(処分庁のみ)。「撤回の効果は成立時にさかのぼる」も誤り(将来効)。取消しと撤回の特徴を入れ替えるひっかけが定番です。
授益的な行政行為は、簡単には取り消せない
最後にもうひとつ大事なルールを。許可や年金の支給決定のように、相手に利益を与える行政行為(授益的行政行為)は、職権による取消しや撤回が制限されます。
理由はシンプルで、相手方は「もらえた」と信頼して生活や事業を組み立てているからです。これを簡単にひっくり返せたら、誰も行政の決定を信用できなくなってしまいます。
そこで、授益的行政行為の取消し・撤回は、それを正当化するだけの公益上の必要があり、相手方の受ける不利益を上回る場合に限って認められます。場合によっては損失の補償も問題になります。
一方で、判例は「撤回そのものに法律の根拠は不要」としています。公益上の必要があれば、法律の明文がなくても撤回できる——ただし授益的処分では上のブレーキがかかる、という整理です。
「授益的行政行為も、瑕疵があれば常に自由に職権で取り消せる」は誤り。相手方の信頼保護から制限を受けます。
条件・期限・負担・撤回権の留保・法律効果の一部除外。法定附款と受理は附款ではない
理由付記・日付の欠如は形式の瑕疵。任命無効でも行為は有効(事実上の公務員)
取消し=原始的瑕疵・遡及・監督庁も可/撤回=後発的事情・将来効・処分庁のみ
📒 この記事のまとめ
行政行為の後半戦、3つのテーマを整理しました。
- 附款は「条・期・負・撤・除」の5種。法律行為的行政行為に、裁量の範囲内で付けられる
- 瑕疵は「重大かつ明白」なら無効、それ以外は取り消しうるにとどまる
- 取消し=原始的瑕疵・遡及効・監督庁も可/撤回=後発的事情・将来効・処分庁のみ
これで第3章「行政行為」は完走です。前編(第4回)とセットで、対比表を何度も見返してください。
確認問題(全5問)
問 1
行政行為の附款に関する記述として、誤っているものはどれか。
- 附款とは、行政行為の主たる意思表示に付加される従たる意思表示をいう。
- 附款は、法律行為的行政行為について、裁量が認められる範囲内で付すことができる。
- 法律が行政行為の効果の発生要件を直接定めている場合も、学問上の附款にあたる。
- 法律効果の一部除外は、法律に根拠がある場合に付すことができる。
💡 ヒント
附款は誰の「意思表示」だったでしょうか。法律が直接定めたものはどうでしょう。
✅ 正解と解説を見る
正解:C
附款は行政庁の意思表示として付されるものです。法律が直接定める要件(いわゆる法定附款)は行政庁の意思表示ではないため、学問上の附款にはあたりません。
問 2
次のうち、行政行為の附款にあたらないものはどれか。
- 条件
- 期限
- 負担
- 受理
💡 ヒント
「条・期・負・撤・除」の5つに入っていないものはどれでしょうか。
✅ 正解と解説を見る
正解:D
附款は条件・期限・負担・撤回権の留保・法律効果の一部除外の5種です。受理は準法律行為的行政行為の一種であり、附款ではありません。
問 3
行政行為の瑕疵のうち、形式に関する瑕疵にあたるものはどれか。
- 法律上必要とされる聴聞を行わなかった。
- 法律上要求されている理由の付記を欠いた。
- 法律上必要とされる他の機関との協議を欠いた。
- 相手方に弁明の機会を与えなかった。
💡 ヒント
「進め方のミス」か「書面のかたちのミス」かで振り分けてみましょう。
✅ 正解と解説を見る
正解:B
理由付記の欠如は、文書のかたちの不備である形式の瑕疵です。聴聞・協議・弁明の機会の欠如(A・C・D)は、いずれも進め方の不備である手続の瑕疵です。
問 4
瑕疵ある行政行為に関する記述として、誤っているものはどれか。
- 重大かつ明白な瑕疵がある行政行為は無効であり、公定力を生じない。
- 無効な行政行為は、出訴期間の制限を受けることなく争うことができる。
- 取り消しうべき瑕疵にとどまる行政行為は、取り消されるまでは一応有効なものとして扱われる。
- 任命行為が無効であった公務員が行った行政行為は、常にすべて無効となる。
💡 ヒント
「事実上の公務員の理論」を思い出してください。守りたいのは誰の信頼だったでしょうか。
✅ 正解と解説を見る
正解:D
事実上の公務員の理論により、任命が無効であっても、その者が公務員として行った行為は相手方の信頼と法的安定性を守るため有効なものとして扱われます。A〜Cは正しい記述です。
問 5
行政行為の取消しと撤回に関する記述として、誤っているものはどれか。
- 職権による取消しは、成立当初から瑕疵のある行政行為の効力を、原則として成立時にさかのぼって失わせるものである。
- 撤回は、適法に成立した行政行為の効力を、後発的な事情を理由として将来に向かって失わせるものである。
- 撤回は、処分庁のほか、監督庁も当然に行うことができる。
- 相手方に利益を与える行政行為の取消し・撤回は、相手方の信頼保護の観点から制限を受ける。
💡 ヒント
撤回を行えるのは誰だけだったでしょうか。取消しとの違いに注目です。
✅ 正解と解説を見る
正解:C
撤回を行えるのは処分庁のみです。監督庁は法律に特別の定めがない限り撤回できません(職権取消しであれば監督庁も可能です)。A・B・Dは正しい記述です。


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