第3回からは、火事が起きたあとの現場の話に入ります。
現場で「ここから先は入らないで」と言えるのは誰か。「火を消すのを手伝ってください」と言われるのは誰か。今回のテーマは、この現場での権限です。
覚えることは1つだけ。「それができるのは誰か」。今回も、条文を一度そのまま読んでから、かみ砕いていきます。
現場の権限は「誰が」で決まる
これから出てくる権限は、どれも似ています。区域をつくる、通る、こわす、水を使う。
ちがうのはやっていい人です。消防吏員(消防の職員のうち、消火や救急の現場にあたる人)なのか、消防団員なのか、それとも長(消防長・消防署長)なのか。
ここを取りちがえさせるのが、この範囲のまちがえやすいポイントです。まずは「区域には2種類ある」ところから始めます。
消防警戒区域(第28条)
「火災の現場においては、消防吏員又は消防団員は、消防警戒区域を設定して、総務省令で定める者以外の者に対してその区域からの退去を命じ、又はその区域への出入を禁止し若しくは制限することができる。」
つまり、火事が起きている現場のまわりに「ここから先は入らないで」というエリアをつくれる、というルールです。これを消防警戒区域といいます。
つくれるのは消防吏員または消防団員。ここが大事なところです。
「2 消防吏員又は消防団員が火災の現場にいないとき又は消防吏員又は消防団員の要求があつたときは、警察官は、前項に規定する消防吏員又は消防団員の職権を行うことができる。
3 火災現場の上席消防員の指揮により消防警戒区域を設定する場合には、現場に在る警察官は、これに援助を与える義務がある。」
つまり、消防の人がまだ来ていないとき、または消防の人から頼まれたときは、警察官が代わりにエリアをつくれます。
そして、現場のいちばん上の消防員(上席消防員)の指示でエリアをつくるときは、そこにいる警察官は手伝わなければなりません。「警察官は援助する必要がない」はまちがいです。
もうひとつ。エリアの設定はロープなどで目に見える形にして行います。「口で言うだけ」ではできません。だれが見ても境目がわかるようにしておく必要があるからです。
「消防警戒区域は口頭で設定できる」「現場の警察官は援助する必要はない」は、いずれもまちがいです。
誰が入れて、誰が出されるのか
ここがこの回でいちばんまちがえやすいところです。「入れる人」と「出される人」は別だからです。
「1 法第二十八条第一項の命令で定める者は、次の各号に掲げる者とする。
一 消防警戒区域内にある消防対象物又は船舶の関係者、居住者及びその親族でこれらに対して救援をしようとする者
二 …勤務者
三 電気、ガス、水道、通信、交通等の業務に従事する者で、消防作業に関係があるもの
四 医師、看護師等で、救護に従事しようとする者
五 法令の定めるところにより、消火、救護等の業務に従事する者
六 報道に関する業務に従事する者
七 消防長又は消防署長があらかじめ発行する立入許可の証票を有する者
3 消防吏員又は消防団員は、現場の状況が著しく危険であると認める場合は、第一項第一号及び第二号に掲げる者の全部又は一部に対して退去を命ずることができる。」
つまり、この7種類の人は入ってよいことになっています。報道の人(記者やカメラマン)も、消防警戒区域には入れます。
そして、とても危ないときに「出てください」と言えるのは、一号(関係者・住んでいる人・助けに来た家族)と二号(そこで働いている人)だけです。
だから、四号の医師・看護師には退去を命じられません。けが人を助けに来てくれている人を追い出してしまっては、助かる命が助からなくなるからです。
「救護に従事しようとする医師・看護師等にも退去を命ずることができる」はまちがいです。
火災警戒区域(第23条の2)
もうひとつの区域は、まだ火事になっていないときのものです。
「ガス、火薬又は危険物の漏えい、飛散、流出等の事故が発生した場合において、当該事故により火災が発生するおそれが著しく大であり、かつ、火災が発生したならば人命又は財産に著しい被害を与えるおそれがあると認められるときは、消防長又は消防署長は、火災警戒区域を設定して、その区域内における火気の使用を禁止し、又は総務省令で定める者以外の者に対してその区域からの退去を命じ、若しくはその区域への出入を禁止し、若しくは制限することができる。」
つまり、ガスもれなどで「このままだと火事になりそう」というとき、そのまわりにつくるエリアが火災警戒区域です。中では火を使うことが禁止されます。ガスがもれているところでライターをつけたら大変だからです。
そしてつくれるのは消防長または消防署長。消防吏員や消防団員ではありません。ここが消防警戒区域との最大のちがいです。
2つの区域を並べると、こうなります。
| 消防警戒区域 (第28条) | 火災警戒区域 (第23条の2) | |
|---|---|---|
| いつ | 火事が起きている現場 | 火事になりそうなとき(ガスもれ等) |
| つくるのは | 消防吏員・消防団員 | 消防長・消防署長 |
| 火を使うこと | ― | 禁止 |
| 報道の人 | 入れる ○ | 入れない ✕ |
報道の人が火災警戒区域に入れないのは、施行規則第45条の「入ってよい人」リストに、そもそも報道業務従事者が入っていないからです。ガスが充満しているかもしれない場所は、それだけ危険だということです。
「火災警戒区域は消防吏員又は消防団員が設定する」「報道業務従事者は火災警戒区域に立ち入れる」は、いずれもまちがいです。
応急消火義務者と協力者(第25条・第24条)
「1 火災が発生したときは、当該消防対象物の関係者その他総務省令で定める者は、消防隊が火災の現場に到着するまで消火若しくは延焼の防止又は人命の救助を行わなければならない。
2 前項の場合においては、火災の現場附近に在る者は、前項に掲げる者の行う消火若しくは延焼の防止又は人命の救助に協力しなければならない。」
ここには2種類の人が出てきます。
- 1項=応急消火義務者…火事を出してしまった人、その建物の関係者(持ち主・管理する人・使っている人)、そこで働いている人。消防隊が来るまで、自分で消火・延焼防止・人命救助をしなければならない
- 2項=協力者…たまたま近くにいた人。義務者がやっていることに協力する立場で、自分が消火の義務を負うわけではない
だから「たまたま来ていた人も応急消火義務者だ」はまちがい。逆に「近くにいる人は何もせず逃げればよい」もまちがいです(協力する義務があります)。
「火災を発見した者は、遅滞なくこれを消防署又は市町村長の指定した場所に通報しなければならない。」
つまり、火事を見つけた人は、すぐに知らせる義務があります。ふだん私たちがかける119番がこれにあたります。「見つけただけの人に義務はない」ではありません。
消防警戒区域は消防吏員・消防団員。火災警戒区域は消防長・消防署長
退去を命じられるのは関係者・居住者・勤務者だけ。救護に来た医師・看護師は対象外
現場付近にいる人は協力義務のみ。応急消火義務者ではない
📒 この記事のまとめ
現場の権限は、どれも「それができるのは誰か」で整理できます。
- 消防警戒区域(第28条)=火災現場。消防吏員・消防団員が設定し、ロープ等で明示する
- 消防の人がいないとき等は警察官が代行。上席消防員の指揮で設定するときは警察官に援助義務
- 退去を命じられるのは関係者・居住者・親族・勤務者のみ。医師・看護師には命じられない
- 火災警戒区域(第23条の2)=ガスもれ等。消防長・消防署長が設定し、区域内は火気使用禁止
- 報道業務従事者は消防警戒区域には入れるが、火災警戒区域には入れない
- 応急消火義務者と協力者は別。たまたま来ていた者は協力者。火災を発見した者には通報義務
次回は、線を引いている暇もないときの話。即時強制と、通る・こわす・水を使う権限を整理します。
確認問題(全5問)
問 1
消防法第28条に定める消防警戒区域について記した記述のうち、正しいものはどれか。
- 火災現場においては、消防署長又は消防団長のみが消防警戒区域を設定する。
- 火災現場にいる警察官は、消防警戒区域に関しては一切援助する必要はない。
- 消防警戒区域からの退去命令等に従わなかった者は、直ちに強制的に排除される。
- 消防警戒区域の設定は、ロープ等により明示する。
- 消防吏員又は消防団員は、消防警戒区域からの退去又は出入を制限できない。
💡 ヒント
「口で言うだけ」の絵には、どんな印がついていましたか。
✅ 正解と解説を見る
正解:D
消防警戒区域の設定は、一定の時間だれの目にも境目がわかるよう、ロープ等により明示して行います。設定主体は消防吏員又は消防団員であり(第28条第1項)、現場の警察官には援助義務があります(同条第3項)。
問 2
消防法第28条に定める消防警戒区域に関する記述で、誤っているものはどれか。
- 消防警戒区域は、消火等を適切に行うとともに生命・財産に対する危険を防止するため、定められた者以外の立入りを禁止・制限する区域である。
- 消防警戒区域の設定は、一定の時間客観的に明示されるべき行為であり、口頭によることはできない。
- 消防吏員又は消防団員が現場にいないとき、又はこれらから要求があったときは、警察官が消防警戒区域の設定等ができる。
- 上席消防員の指揮により設定する場合、現場の警察官はこれに援助を与える義務がある。
- 著しく危険な場合、救護に従事しようとする医師・看護師等に対しても退去を命ずることができる。
💡 ヒント
けが人を手当てしていた人たちの上には、どんな札が出ていましたか。
✅ 正解と解説を見る
正解:E
著しく危険な場合に退去を命じられるのは、施行規則第48条第1項第一号(関係者・居住者・親族)及び第二号(勤務者)に限られます(同条第3項)。救護に従事しようとする医師・看護師等は対象になりません。
問 3
消防法第23条の2第1項に定める火災警戒区域について、区域内に立ち入ることができる者として総務省令に掲げられていないものはどれか。
- 火災警戒区域内にある消防対象物又は船舶の関係者
- 事故が発生した消防対象物又は船舶の勤務者で、当該事故に係る応急作業に関係があるもの
- 報道に関する業務に従事する者
- 電気・ガス・水道等の業務に従事する者で、当該事故に係る応急作業に関係があるもの
- 医師・看護師等で、救護に従事しようとする者
💡 ヒント
2つの区域を並べた絵で、片方だけ止められていたのは誰でしたか。
✅ 正解と解説を見る
正解:C
火災警戒区域に立ち入れる者は施行規則第45条第1項に列挙されており、報道業務従事者は含まれていません。消防警戒区域(施行規則第48条第1項第六号)には立ち入れる点と対比して覚えましょう。
問 4
消防法第25条に定める応急消火義務者として妥当でない者は、次のうちどれか。
- 火災を発生させた当該対象物にたまたま来ていた者
- 火災を発生させた者
- 火災を発生させた当該対象物の所有者
- 火災を発生させた当該対象物の勤務者
- 火災が発生した共同住宅に住む住人
💡 ヒント
ホースを運んで手伝っていた買い物帰りの人は、どちらの札の側にいましたか。
✅ 正解と解説を見る
正解:A
たまたま来ていた者など現場付近にいる者は、応急消火義務者が行う消火・延焼防止・人命救助に協力すべき協力者であり(第25条第2項)、応急消火義務者ではありません。
問 5
火災が発生したときの対応に関する記述のうち、誤っているものはどれか。
- 火災を発見した者は、遅滞なくこれを消防署又は市町村長の指定した場所に通報しなければならない。
- 火災の現場付近にいる者は、消火等は行わず直ちに避難しなければならない。
- 火災が発生したときは、関係者等は消防隊が到着するまで消火若しくは延焼の防止又は人命の救助を行わなければならない。
- 火災現場において、消防吏員等は情報の提供を求めることができる。
- 消防車は、出動するとき等にサイレンを鳴らすことができる。
💡 ヒント
第25条第2項が、現場付近にいる人に求めていたのは「避難」でしたか、それとも……。
✅ 正解と解説を見る
正解:B
火災の現場付近にいる者は、応急消火義務者の行う消火・延焼防止・人命救助に協力しなければなりません(第25条第2項)。直ちに避難すべきとする記述は誤りです。


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